第173話 最下級のドラゴン

上空のドラゴネットを風が縛り、その飛行を妨げる。

残念ながら俺の『ウィンドブレイク』ではドラゴネットの翼を刻み墜落させるまでには至らないが、明らかに動きが鈍り高度は下がっている。


『ウィンドブレイク』


すぐに追撃を放ちドラゴネットを落としにかかる。


「グギャアアア」


ドラゴネットの巨体だ、コントロールを失い上空から落ちればダメージは計り知れないだろう。

2度目の風がドラゴネットを襲い、更動きを拘束し、高度を下げる。その姿が次第に大きくなってきたが、一声鳴くと羽ばたき再び上昇を始めた。


「まだダメか。これで堕ちろ! 『ウィンドブレイク』」


俺は最後の『ウィンドブレイク』を上空のドラゴネットに放つ。

三度目の『ウィンドブレイク』を放ったことで、俺には上空のドラゴネットを拘束する術はなくなった。

これで落ちなければ、戦いにすらならないかもしれない。

俺は上空のドラゴネットの動きを確認する。

一旦上昇を始めたドラゴネットは、その動きを止め落下し始めたが、上空二十メートル程のところで持ち直し再び翼を動かした。

だが、下にいる俺の存在に気がついたようで、上昇を止めそのままゆっくりと地面へと降りてきた。

でかい。

神木さんの時もだが、さっきまで俺とはかなり距離があったので、正確な大きさはわからなかったが、こうして実際に間近で相対すると考えていたよりもかなり大きい。

大きさだけならトロールとそう変わらないかもしれないが、その風貌と迫力からか、遥かに大きく見える。

そして、その大きさからか同じくCランクモンスターのゴブリンロードと比較しても威圧感が半端ない。

よく見るとドラゴネットの外皮には無数の細かい傷が刻まれているのがわかる。俺の三度に及ぶ『ウィンドブレイク』によるものだと思うが、鱗に阻まれその下までは届いてないようだ。

地表に降りてすぐに襲ってくるかと思っていたが、ドラゴネットはその顔をこちらに向け、じっと俺たちのことをうかがっているようだ。


「グルルルッ」


その爬虫類を想起させる金色の目が俺の方を見据えてゆっくりと動くが、こういうのを蛇に睨まれた蛙とでもいうのだろうか。全身から汗が噴き出してきて、心臓の鼓動が一気に速くなる。

これがドラゴン……

俺だって当然覚悟を決めてこの場に臨んでいる。

だが、竜種最下級に位置するドラゴネットでこの圧か。

舐めていたわけではないが、ドラゴネットの目から視線を外すことができずに、その場から一歩も動くことができない。


「凛くん!」


葵の声で萎縮していた筋肉が緩み、思考が戻る。受けにまわればやられる。とにかく先に攻撃を当てる!

俺はすぐさまドラゴネットに向けスキルを放つ。

俺の選択したのは神木さんがドラゴネットを葬ったスキル。


『ボルテックファイア』



あとがき

本日カクヨムコン読者選考最終日です。

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