第172話 ドラゴネット
あれはドラゴネットだ。
まだ姿は小さくしか見えないが、俺の脳裏に焼き付いている、以前神木さんが俺の見ている前で倒したドラゴネットの姿そのものだ。
ランクCのモンスター。
神木さんはあっさりと倒していたが、それでも『ライトニング』では倒すことができずに『ボルテックファイア』を使用してしとめていた。
ドラゴンの中では下位に位置するモンスターだが、その力はCランクの中でも中位以上。最強種とも言われるドラゴンの系譜に連なる間違いなく強敵。
「葵、あれはドラゴネットだ」
「ドラゴネットですか。あれが。実際に見るのは、はじめてですが、たしかにその特徴を備えているように見えますね」
問題は、徐々に迫ってくるあれをどうするかだ。
どうするというより、どうもせず見て見ぬふりをするかということだ。
Eランカーにすぎない俺たちが、目の前を通り過ぎるドラゴネットをスルーしても誰も咎める者はいないだろう。隠れてやり過ごせば問題ない。
むしろそれは必然。
おそらく余程のバカか愚か者でない限り、サバイバーのEランカー百人いれば百人がこの場はスルーするだろう。
だけど、あれが単独で飛んで移動しているということは、担当のサバイバーはまだ到着していないか、追いついていない可能性が高い。
ドラゴネットがひとたび暴れ始めれば、少なくない被害が出るのは間違いない。
それに……あの神木さんが倒したモンスター。あれから俺もレベルアップしたし、モンスターもそれなりに倒してきた。今の俺なら、あの時の神木さんに少しは近づくことができただろうか。
そんなくだらない思いが頭をよぎる。
「凛くん。やるつもりですか?」
「え!? いや、まさか」
「約束してください。危なくなったら必ず逃げると」
「なんで……」
「凛くんの顔に書いています。ドラゴネットを放っておけないって。さすがに私もドラゴネット相手にどの程度役に立てるかはわかりませんが、凛くんのフォローは精一杯させていただきます。それに位置情報はサバイブで組合に送信しておきましたので、そのうちCランカー以上のサバイバーがやってくるはずです」
葵には敵わないな。葵がいるので、頭をよぎった自分のくだらない思いは無視してスルーしようと思っていたのに、俺の気持ちを完全に見透かされてしまった。
「ありがとう。約束するよ。危なくなったら葵を連れて絶対に逃げるよ」
「はい! それじゃあドラゴネットを倒しちゃいましょう。Eランカーのパーティ単独でドラゴネットを倒したなんて聞いたことがありませんから。ある意味偉業ですね」
「それは倒せたらな。それに偉業って言うより愚行とか蛮行って言った方が近いかも」
「ふふっ、そうかもしれませんね」
葵と話している間にもどんどんドラゴネットの姿が近づき大きくなってくる。
「フ〜ッ」
俺は大きく息を吐き、上空に迫るドラゴネットへ向けてスキルを放つ。
『ウィンドブレイク』
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