第171話 空飛ぶあれ

「終わったな。お疲れ様、葵」

「はい、凛くんもお疲れ様です。それじゃあ帰りましょうか」

「うん、そうしようか」


俺たちはトロールとの戦闘を無事終えて、帰路につく。


「贅沢を言えば『瞬光』を使って見たかったんだけど、なんかその前に終わってしまったな」

「それだけ凛くんが強くなったということです。相手はトロールですから、本来弱いということはありません」

「そうだよな。最近結構、上位ランクのモンスターと戦う事が多かったせいか、感覚が麻痺してるかも」

「それは私にもわかります。普通のEランカーはこんな激闘を繰り返したりはしないと思います。もしかしたら凛くんはそういう星の下に生まれついたのかもしれませんね」

「葵、そんな星の下なんか無いから。運命的に頻繁にイレギュラーに巻き込まれるなんて嫌すぎるでしょ。今までだって、いっぱいいっぱいなんだから、これ以上は勘弁してほしいな。また倒れちゃうよ

「ふふっ、そうですね」


葵と談笑しながらロードサイクルを漕ぐ。

モンスターをノーダメージで倒せたので、ゆっくりとした平穏な時間が流れる。

俺は葵とのこと時間が結構気に入っている。


「凛くん、あれってなにか大きくなってるような気がするのですけど」

「え? どれ?」

「あの空にあるあれです」


葵に言われて空を見上げると、空中に豆粒ほどの点が見える。

そのまま見ていると確かに大きくなっているような気もする。


「葵、あれって何だろう」

「飛行物には違いないと思いますが、この辺りに飛行機が飛んでいるとは思えませんし、飛行機にしてはスピードが遅い気がします」

「ヘリっぽくもないよな」


飛行機ではない飛行物。そしてかなり距離があるにもかかわらず目視できる大きさ。


「もしかして……」

「はい、まず間違いなくモンスターだと思います」

「飛行型のモンスターか!」

「はい。おそらく。ですがどう考えても私たちが戦ったことのあるハーピーとは違います」


ここからでもわかるが、ハーピーとは明らかに大きさが違う。


「飛行型のモンスターで移動しているのであれば、他のサバイバーは捕捉できていないかもしれません」


ロードサイクルを停めて近づいてくるモンスターを注視する。

色は茶色か黒っぽい。何となくだが鳥ではなさそうだ。ただよく見ると、翼らしきものの羽ばたきとともに少し上下しているのがわかる。

俺の少ない知識の中であれに類するモンスターがひとつ頭をよぎる。


「まさか……ドラゴン」

「そうなりますね。あの感じ間違いなさそうです」

「やっぱり」


途中からモンスターなのであれば、被害が広がる前に倒せるなら倒したいとも思っていたが、ドラゴンは無理だ。


「葵! 逃げよう」

「凛くん、ドラゴンには違いないと思うのですが、飛び方がぎこちないというか、サイズも少し小さいような気がするのですが」

「そんなことどうだって……」


距離が近づいてきて俺の目でも小さくだがはっきりと姿形がわかるようになってきた。

あの身体の大きさに対して小さな翼。少しずんぐりとした体躯。

俺はあのモンスターを知っている。たしかに俺の記憶の中にはあの姿がはっきりと焼き付いていた。


あとがき

現在モブから4の書籍化作業でサバイバーに手が回っていませんが、一段落したので投稿します。

また作業に入ると投稿できなくなるので気長にお待ちください。

よろしくお願いします。

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