第167話 ポーション
「ぐっ……あ……」
葵に手伝ってもらってなんとか身体を起こすことに成功したが、泣くほど痛い。
「救急車本当に呼ばなくて大丈夫ですか?」
「ああ、なんとか身体を起こすこともできたし、もう大丈夫だと思う」
上半身は無理やり起こしたおかげで少し左右にも捻ることができるようになっているが、問題は脚だ。
自分の感覚では特にダメージが大きいような気がする。
昨日の戦闘でどこを一番使ったかといえばもちろん脚だ。
その分ダメージが大きいのだろう。
「ふっ……くっ」
再び葵の力を借りて脚の屈伸を始めるが、脚の筋肉と腱が切れそうだ。
「あぁ……葵、ちょっと弱めでお願い」
「凛くん、今でもかなり弱めです。このままだと厳しい気がするのでパパに対処法を聞いてみますね」
「ああ、それがいいかもしれない。申し訳ないけどお願いします」
弦之助さんなら経験者なので良い対策法を教えてくれるかもしれない。
葵が弦之助さんに連絡をとると、わざわざ俺のところまでやってきてくれた。
「あ〜凛くんもやっぱりそうなったか。懐かしいなぁ。俺の時なんか最初に使った時は三日寝込んだからまだまだ軽い方だよ」
これで軽い方なのか。この状態で三日ってほとんど殺人スキルじゃないか。
「それでどうすれば……」
「気合いで治すんだ」
「気合……」
どう考えても気合いで治せるようなものじゃない。
「まあ気合も大事だけど、これを使うのがいいかなぁ」
そう言って弦之助さんがバッグから栄養ドリンクのような茶色の瓶を取り出した。
「栄養ドリンクですか?」
「いや、これはポーションだよ」
「ポーションですか?」
「そう、ポーション。知らない? ポーション」
ポーションといえばファンタジーものに欠かせないアイテムだが、現実に存在するのか? お金を稼げるようになってから買って読んだ小説にものっていた。それとも、お決まりの弦之助さんの冗談か?
「ポーションってあのポーションですか?」
「そう、あのポーションだよ」
「そんなのあるんですか? 聞いたことないです」
「ああ、そんなに数が出回ってないから。完全にスキル持ちの家内制手工業だから、結構上位のサバイバーにしか知られてないんじゃないかな」
「そうなんですか?」
弦之助さんによるとポーションは俺の僅かばかりのファンタジー知識にある錬金とか精製によってつくられるのではなく、回復スキル持ちが精製水にスキルを発動し製造するらしい。スキルが水に効果があるのも驚きだが、なんと瓶詰めしておけばその効果は六ヶ月も続くそうだ。ちなみに人にスキルを使用した場合は効果はその瞬間だけらしい。
「これを飲めばかなり良くなると思うよ。私も時々お世話になってるんだ。ぐ〜っといっちゃって」
「はい、それじゃあ、いただきます」
生まれて初めてのポーションを開けて一気に飲む。
ポーションといえば小説の中の憧れのファンタジーアイテムなので味もファンタジー感があるのかと期待して飲んだが、普通に水だった。
スキルを付与しても水は水だった。
スキルは無味無臭らしい。
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