第149話 とりあえず

俺は部屋に戻ってからとりあえず片付けをしている。

葵が言ったように、毎日葵が掃除を手伝ってくれているのでゴミはほとんど無い。

片付けるといっても、ほとんど自前の物が無いため片付け自体あまりないのだが、なにもしないわけにいかないので、おいている物の位置を変えたり並べ替えたりしている。


「凛くん、それはもう三回目ですよ」

「そうだったかな。でもここはこっちの方が……」

「凛くんの部屋は十分綺麗です。それに私の両親もそれほど気にするタイプでもないので、いつも通りで大丈夫ですよ」


そうは言ってもいつも通りで葵の両親を迎え入れるわけにはいかない。

葵の両親が日本へ帰ってくるのは久しぶりのはずなので、お寿司でも用意した方がいいだろうか。

今から注文しておいた方がいいのか? 

そもそもお寿司の注文なんかした事がないので要領がわからない。


「葵の両親ってお寿司とかが好きかな。俺頼んでこようか」

「凛くん、気を使ってもらってありがとうございます。両親はお寿司大好きなんですけど大丈夫ですよ。もし両親がお寿司を食べたいときは、みんなで回転寿司にいきましょう」

「回転寿司……」


俺は行ったことはないが、もちろん存在は知っている。

テレビで見た事がある。

いろんな寿司が店内を回っているという夢のようなお店だ。な

一度は行ってみたいと思いながら今まで行けていなかったお店。

俺にとっては敷居の高い店だが、葵の両親にとってはどうだろうか。モナコと回転寿司のイメージがリンクしない。


「それじゃあ、なにか用意しておく物ってないかな。コップとかお皿、ああ、お菓子とか買ってこようか」

「凛くん、大丈夫です。コップもお皿も使い捨てのものがありますし、お客さんじゃないんですからお菓子も大丈夫です」

「葵に選んでもらった服を着ないといけないな。明日はどれを着ようか」

「どれも凛くんに似合っているので、どの服を着ても大丈夫です」

「葵の両親は日本語大丈夫なんだよね」

「もちろんですよ。ふふっ、だって日本人ですから」


あ〜、それはそうだ。

やばい。自分で思っている以上に舞い上がっているらしい。葵の両親のことで頭がいっぱいで落ち着かない。


「葵の両親は葵の部屋に泊まるの? 布団が足りないんじゃない? 今から買いに行く?」

「大丈夫です。泊まりは近くのホテルを取っているはずなので、こちらへは挨拶を兼ねて遊びに来るだけですよ」

「挨拶か。挨拶」


今から挨拶の練習をしておく必要があるな。

両親への挨拶をしくじれば、葵にも迷惑がかかってしまうかもしれない。

寝る前に、ノートに内容をまとめておこう。


「そんなに緊張しないでください。私の両親は結構オープンな感じなので絶対凛くんとも仲良くできると思います。両親もずっと凛くんに会えるのを楽しみにしてたんです。今回急遽戻ってくるのは、私のこともありますけど、凛くんへの顔見せがメインだと思います」

「俺への顔見せがメイン……」


やばい、更に緊張感が高まってしまった。

今からこんなんで本当に大丈夫なんだろうか?

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