第141話 まだ終わらない

「葵! しっかりして、葵!」


葵を見る限り少し擦り傷はあるが、モンスターから直接的な攻撃を受けたわけではないので外傷はそれほどない。

特に苦しそうな表情も浮かべていないので、すぐにでも起きてくれそうな気もするが反応はない。

頭をうっていないかが心配だが、俺では判断がつかない。


「葵!」


「…………ギャ、ギャ」


うそだろ。自分の耳がおかしくなったと思い込みたいところだが、確かに聞こえた。

まだ距離があるのか、小さな声だが、間違えようがないゴブリンの声。

ゴブリンロードを倒したので終わったとも思っていたが、まさかまだ他にもいたのか。

いったい何体のゴブリンが残っているのかわからないが、俺に残されたのは僅か1回の『アイスブラスト』のみ。

複数のゴブリンが出てきた時点で終わりだ。

一刻も早く葵を起こしてこの場を去る必要があるが、まだ葵の意識が戻らない。

俺が背負って逃げることも頭をよぎったが、医療知識のない俺には葵を動かしていいものかどうか判断がつかず、すぐに対応が思いつかない。


「葵! 葵!」


俺は必死に呼びかける。


「う……うん」


俺の呼びかけに反応があった。どうやら最悪の事態は避ける事ができそうだ。


「葵!」


「ギヤ、ギャ、ギャ、ヒャ」


声が大きくなってきたので顔をあげると山からゴブリンが降りてきたところだった。

その数は三体。

まずい。俺だけで対応できる数を超えている。


「葵、起きて! 葵!」

「うぅ〜ん……」


もう少しで意識が戻りそうだが、それよりもゴブリンの方が攻撃してくる方が早い。

葵の意識が戻るまで待ってくれそうにはない。

ここは俺がなんとかして凌ぐしかない。


「それ以上近づくな!『アイスブラスト』」


先頭にいるゴブリンに向け最後のスキルを発動する。

冷気の爆発は一体のゴブリンを消滅させ、残りの二体も余波で弾き飛ばしてダメージを与えることには成功したが、やはり三体を同時に葬りさることはできなかった。


「ガギャアァ!」


俺のスキルに警戒して残りの二体が距離をとり、こちらをうかがっている。

もう一刻の猶予もない。

俺もゴブリンへの注意は切らせずに、大袈裟にスキルを発動する素振りだけ見せて牽制しながら、葵を背負って逃げることを選択しようとしたその時


「あ〜いたいた。ゴブリンか〜。二体いるから、しかたないかな〜まあ俺の敵じゃないな」

「え〜すご〜い。さすがだね」

「まあ、救援要請を受けて放っておけないだろ」

「うん、うん、わかる、わかる。さすが〜」


突然、場違いな雰囲気の男女二人の軽い感じの声が聞こえてきた。

もしかして、俺たちの救援要請を受けたサバイバーが助けに来てくれたのか?

だが、この声と喋り方には聞き覚えがある気がする。

この声はまさか……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る