第139話 未発動

こうなってしまえば葵だけでも逃げることができれば、そう思い葵に退避を勧奨する。

あとは俺が時間を稼ぐためにゴブリンロードの足止めをするだけだ。

だが俺に残されたスキルは『アイスジャベリン』が六回のみ。

しかも『アイスジャベリン』は全く効果が無かった。

おそらくゴブリンロードは火に弱い。少しでも効果をあげるなら炎。

『エクスプロージョン』なら少しぐらいの時間は稼げるかもしれない。

俺は僅かでも時間を稼げる可能性に賭け『アイスジャベリン』を『エクスプロージョン』に換装する。


『エクスプロージョン』


「え?」


俺が『エクスプロージョン』を放とうとした瞬間、葵の『エクスプロージョン』が炸裂した。


「なんで……」

「今まで凛くんに護ってもらってばかりだったんです。今度はわたしが凛くんを護る番です! わたしがゴブリンロードを倒します」


葵がその場からゴブリンロードを見据えてスキルを連発する。


「燃えてなくなりなさい。『エクスプロージョン』 『ウィンドカッター』 『エクスプロージョン』」


『ボルテックファイア』によりダメージを受けたのか動きが止まったゴブリンロードに葵の攻撃が降り注ぐ。


「ガァアァッ」


効いている。

もしかしてこのまま押し切れる?


「まだです『ウィンドカッター』 『エクスプロージョン』」


葵が強いのはよく知っていたつもりだが、一体に向けてフルバーストした葵の火力は凄まじいものがある。

さすがのゴブリンロードも少しずつ、皮膚が焼け血を流し始めている。

更に葵がたたみかける。


『エクスプロージョン』


圧倒的に押しているはずなのに、ゴブリンロードのプレッシャーが弱まることはない。

ゴブリンロードが再び吠えると同時にゴブリンロードから、大きな氷の塊が放たれた。

こいつまさか、スキルを使えたのか!

氷の塊と葵の放った爆炎がぶつかり合い、小さな爆発が起こり、衝撃波により俺と葵がその場から吹き飛ばされてしまった。


「きゃあ」

「ぐっ……」


今まで使う必要がなかったのか、隠し持っていたのかはわからないがこのタイミングでスキルを発動するとは、俺も葵も想定していなかったので反応が遅れてしまった。

すぐに葵の方をみると、ぐったりと地面に横たわっている。

直接的なダメージは少ないと思うが、弾き飛ばされて気を失ったのかもしれない。


「グガアアアッ!」


ゴブリンロードがゆっくりと葵に向かって歩を進める。

やばい。

今襲われたら葵が……


「『エクスプロージョン』なっ……」


俺は必死で模倣したスキルを唱えるが、なにも発動しない。


「『エクスプロージョン』なんで発動しないんだよ!」


もう一度スキルを唱えるが、やはりなにも発動する気配はない。

なんだ? なんで発動しない! もう時間がない。

焦りが募るが、三度目のスキルを唱えてもやはり発動しない。

俺は慌ててステータスを確認する。


「なんだこれ……」

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