第121話 予定がいっぱいの春休み

オーダーバイキングで食事を終えてから家に帰ると、息をつく間もなく


「それでは凛くん、昨日の続きから始めましょう」

「はい」


葵のこの切り替えの速さは尊敬に値する。

俺ひとりなら間違いなく部屋でだらだらしている。

葵に促されて勉強を始めるが、今日は何時までの予定だろう。

とりあえず晩御飯までは勉強だな。

本来あまりやりたくない勉強だが、葵が一緒に勉強してくれているので、数時間であれば苦にならない。


『ピピッ』


勉強をすすめている最中にサバイバーに依頼の知らせがきた。


「凛くん、とりあえず勉強はここまでにしましょう」

「わかった」

『ピッ』


続けてサバイバーが反応したので確認すると遠薙さんからの連絡が入っていた。


『凛く〜ん、春休みでしょ〜。今どこにいるのかな〜。お姉さんと遊ぼうよ〜。暇〜』


うん、これは無視していいやつだな。


「凛くん、返信はしないのですか?」

「えっ? 今から討伐だしそんな暇はないよ」


いつもの葵の声ではない。明らかにトーンが低いというか暗い感じがする。


「暇なら返信するんですね。遊びに行くんですか?」

「いや、そういうわけじゃ……」


何やら周囲の風の精霊がざわざわと騒いでいるように感じる。

もちろん俺には風の精霊など見えるはずもないのであくまでも、そういう感じがするだけだが明らかに周囲の空気がざわついている。


「凛くん、遠薙さんみたいな方がタイプなんですか?」

「タイプ?」

「確かに魅力的ですよね。年上でそれでいて愛らしい感じもありますし、何より『風姫』ですから」

「葵、いったいなんの話を……」


だめだ。

風の精霊が暴れ出そうとしている。ここで間違えてはいけない。

俺のサバイバーとしての本能が告げている。


「遠薙さんのことはよく知らないし、そういう風に思った事は一度もないよ。確かにサバイバーとしては尊敬に値する人だとは思うけど」

「そうなんですね……」


周囲の空間が落ち着きを取り戻してきた気がする。


「『風舞』以外の能力も見てみたい気はするけどね」


これは嘘偽りの無い俺の本音だ。スキルの置換をする為には、あてのない俺にはBランカーである遠薙さんのスキルは魅力的に映る。


「そうですか……」


葵の声に元気がなくなっている気がする。


「あの方、そういうつもりはないと言っていましたが、どういうつもりなのでしょうか……やっぱり……」


葵が上の空でぶつぶつ言っているが、モンスターは待ってはくれない。


「葵、そろそろ準備をして向かおう」

「そうですね。まずは依頼にしましょう。あの方の事はその後ですね」


『ピッ』


再びサバイバーが反応する。


『凛く〜ん、スルーはだめだよ。お姉さん傷ついちゃうぞ。お〜い返事して〜』


これは……


「は〜、凛くん返事を返してあげてください。放っておいてもいい事はない気がします」


葵に促されて返事を入れる。


『今から依頼です』


一言入れて準備を始めようとするがすぐに返信が来る。


『場所を送って。お姉さんも一緒にいく〜』


「この方はどこまで……いえ凛くんのことを考えれば一緒に行動するのも……」

「断ろうか?」

「いえ、せっかくですので、間に合うようなら来てもらいましょう。わたしも少しお話ししたいですし」


部屋の中の風の精霊の密度が濃くなった。

そんな気がした。


あとがき

モブから始まる探索英雄譚1の発売から1週間が経ちました。皆さんの応援もあり想像以上の反響で続刊が決まりました。既に地味な書籍化作業に入っていますが、まだの方は是非購入お願いします。やる気が出ます!

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