第109話 プレゼントと恒例行事

買った財布は学校にも持って来ていたが、結局放課後まで渡すことが出来なかった。

昼休みにご飯を食べている間に渡せばよかったのだが、なんとなく周りの目が気になってしまい無理だった。

いっそのこと帰ってから渡そうかと思ったが、バッグの中に入れておいた意味も無くなるので、帰り道の途中で渡すことにした。


「葵、これヴァレンタインデーのお返し」

「え? もうスタンバトンをいただいたのに……」

「さすがに、チョコレートのお返しにスタンバトンは……気に入ってもらえるといいけど」

「開けてみてもいいですか?」

「もちろん」


葵がその場に立ち止まって、プレゼントの包装を丁寧に開けていく。


「わぁ……綺麗な色の財布ですね。ありがとうございます」

「あんまり高いものじゃ無いけど、よかったら使ってね」

「もちろんです。今日から使わせていただきます。うれしいです」


いつも以上に葵の声が明るいトーンに変わったので、どうやら気に入ってくれたらしい。


「葵に水色が似合うんじゃ無いかと思ってそれにしてみたんだけど」

「ありがとうございます。一生大事にしますね!」


喜んでもらえて俺もうれしいが、さすがにそれほど高級品では無い財布を一生大事にするっていうのは大袈裟だろう。


「葵、一生はちょっと無理じゃ無いかな。ダメになったらいつでも新しいのを買うから言ってよ」

「大事に使うので大丈夫です。本当にありがとうございます」


葵が弾けるような笑顔でお礼を言ってくれるので、この笑顔が見れただけで、この財布をプレゼントした意味は十分にあった。

店員さんのセンスに感謝しないといけない。

それから、何事も無く学校生活を送り十日ほどで終業式を迎えた。

ちなみに本田は午前中授業の期間も補講があったらしく必死で勉強しているようだった。

今それだけ頑張るんだったら、テストの前に頑張ればいいのにと思ってしまったが今更なので本人にはなにも言うことは無い。

終業式を終えて葵と帰ることにするが、今日も葵は遅れている。

ほぼ節目節目で恒例行事のようになってきているが、葵はあまり喜んでいる風では無いので、今後何か対策できればいいけど、なかなか難しいよな。

今回は探しに行った方がいいかと思い、教室を出て葵のクラスの教室を覗いてみると、そこには葵と男子生徒が一名いた。


「葵さん! どうしても君がいいんだ。君じゃなければダメなんだ」

「ごめんなさい」

「どうして。俺じゃダメなのか?」

「はい」


告白の最中だった。

これまで葵への告白は何度か遭遇したが、みんな一様に情熱的というか押しが強い。

まるで漫画の主人公かなにかのようなセリフが毎回展開されている。

その姿を見るたびにある意味感心させられてしまうし、その熱量を羨ましく思ったりもするが、俺には無理だな。


「理由を教えてくれ! 納得できない」

「理由は、私には大好きな人がいるからです」

「なっ……そいつと付き合っているのか?」

「いえ、そういうわけではありませんが私が一方的に好意を抱いているだけです」

「そんな……葵さんが片想いしてるというのか」

「ですのであなたとお付き合いする事はできません。ごめんなさい」


男子生徒は葵の言葉に完全に砕け散ったようだ。

それにしても葵に片想いの相手がいるとは知らなかった。

まあ、断り文句という可能性もあるけど、俺ずっと一緒にいて大丈夫なのか?

いずれにしてもあの砕け散った様を見せられると、間違っても俺は告白なんかできないな。

パートナーでいられるだけで十分だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る