第95話 風姫

「本当に助かっちゃった。ありがとうね〜。最近は助けてくれる人なんかいなくなっちゃったから嬉しかった〜」

「いえ、余計なことをしちゃいましたか? 俺達の助けなんか必要なかったんじゃ」

「そんなことないよ〜。三体はちょっと大変かもと思ってたから」

「それならよかったです。それじゃあ俺達はこれで失礼します」


他にモンスターも見当たらないので、その場から去ろうとする。


「ちょっと待ってよ。名前ぐらい教えてくれない?」

「あ、ああ。俺は山沖凛で、こっちが若葉葵です」

「凛くんに葵ちゃんね。二人共高校生でしょ。初々しいわね〜。私は遠薙華波よ。よろしくね〜」

「遠薙華波さん。やはり貴方は風姫でしたか」

「あら、葵ちゃん私のこと知ってるの?」

「はい、それはもちろんです」


風姫。もしかしてまた2つ名持ちか。しかも風姫。神木さんの雷帝もすごいネーミングだと思ったけど、風姫もすごいな。


「やっぱり遠薙さん、凄い人だったんですね。余計なことをしてしまいました。すいませんでした」

「そんな事ないわ。最近名前と顔が売れてきたら誰も助けてくれなくなっちゃって、久々にキュンとしちゃった」

「……そうですか。それじゃあこれで失礼します」

「ちょっと〜凛くんクールすぎない? お姉さん悲し〜」


……これはどういう対応が正解なんだろうか。遠薙さんの距離感がおかしい気がする。


「遠薙さん、凛くんとわたしはパートナーなのでそろそろ失礼しまね」

「あら、葵ちゃん可愛いわね〜。恩人の邪魔をしたりしないわよ。安心して。私は二人と仲良くなりたいだけだから。ね!」

「そう……ですか」

「そうよ〜。それじゃあ早速二人の連絡先を教えて。サバイブで交換しましょ。はい!」

「え、あ、はい」


葵が圧倒されている。こんな事は初めてだ。

葵は遠薙さんに押されてサバイブを取り出し、連絡先を交換し始めた。


「はい完了。それじゃあ凛くんも、はい!」

「え、俺もですか?」

「当たり前でしょう。凛くん。ね!」

「は、はい」


葵が押し切られたのもわかる。小柄なのに妙に迫力がある。これが風姫か。

葵が抵抗できなかった相手を前にして俺が抵抗できるはずもなく、あっさりとサバイブで連絡先を交換することになった。


「それじゃあ二人共これからもよろしくね。それはそうと葵ちゃんがダブルで凛くんがクインタプルってすごいね〜。高校生でDランクなんてなかなかいないよ〜」

「あ〜それ違います。俺達DランクじゃなくてEランクです。俺なんかEランクに上がりたてですし」

「え!? 二人共Eランカーなの? しかも凛くんはE上がりたて? ほんとに?」

「本当ですよ。凛くんの強さは普通じゃないですが、Eランクに上がったばかりなのは本当です」

「ちょっとレベルを聞いてもいいかな〜」

「別にいいですよ。俺はレベル10になったばかりです」

「レベル10!? 凛くん絶対におかしいって。レベル10でリザードマン二体を倒すなんてありえないでしょ。凛くんやっぱり君面白いわね。お姉さん興味が湧いちゃった〜」

「遠薙さん!」


なぜか周囲に緊張感が走り、風が渦巻いてせめぎ合っているような幻影が見える気がする。これは、風姫の特殊能力か?

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