第94話 風使い
至近距離から放たれた炎雷は赤いリザードマンに斬られる事なく直撃し、その鱗を蒸発させ、脇腹に大きな穴を開けて弾き飛ばした。
『ボルテックファイア』はリザードマンにも通用した。
倒れているリザードマンの脇腹に『エクスプロージョン』を放ち肉を焼く。
「ジャアァアアアア〜」
肉の焦げた匂いと共にリザードマンの断末が聞こえ、そのまま消滅した。
これであと一体。いける。そう思ったのとほぼ同時に場違いなトーンの声が聞こえてきた。
「ふ〜んやるじゃない。君たち高校生でしょ? リザードマンを倒せるってなかなかね。救援に入るだけあるわ〜。しかも君クインタプル? 初めて見たわ〜」
え? この声はさっきの女の人か? リザードマンはどうした?
俺は声のする方へと視線を向けるが、そこには既にボロボロの状態となったリザードマンが膝をついていた。
女の人は顔色ひとつ変えずに涼しい顔でこちらを向いていた。
俺達がこれだけ苦戦しているリザードマンを一人で圧倒しているのか?
「クアァアアア〜」
「ちょっとうるさいわね。ちょっと黙って『風舞』」
女の人がスキルを発動すると、その直後赤いリザードマンが真っ二つに裂けた。
「あ……」
『風舞』と言っていたので風系『ウィンドカッター』に類するスキルだとは思うが、威力がおかしい。
Dランクのリザードマンを一撃で切断してしまった。
葵が使うオリジナルの『ウィンドカッター』でもそこまでの威力は無い。
「燃えてください。『エクスプロージョン』」
あまりの出来事に衝撃を受け、動きを止めてしまっていたが、葵がまだもう一体のリザードマンと戦闘を繰り広げている最中だった。
俺はすぐに意識を切り替えて葵の援護にはいる
「葵、待たせてごめん」
「いえ、凛くんさすがですね。もう完全にDランクを上回っています。それにあの方……」
「ああ、とんでもない強さだ。もしかしたら俺達の助けなんていらなかったのかもしれないけど、こいつは俺達で倒そう」
「はい、もちろんです」
「さっきと同じやり方でいくよ。葵は足止めを頼む!」
「足止めだけじゃなく倒してしまうかもしれませんよ。『エクスプロージョン』 『ウィンドカッター』」
葵がリザードマンに向けスキルを発動しダメージを与えていく。
致命傷とはなっていないがリザードマンの身体に確実にダメージを蓄積させていく。
このままいけば葵だけでも倒せそうな気もするが、俺も何もしないというわけにはいかない。
『ライトニング』
俺もスキルを放ちながら、リザードマンとの距離を詰めていき懐に入った瞬間炎雷を放つ。
「これで終わりだ!『ボルテックファイア』」
元々葵がダメージを与えていた事もあって、今回のリザードマンは炎雷の一撃で消滅へと追いやる事が出来た。
「やっぱり、すごいわね〜。その年でDランクなんてなかなかいないわよ〜」
背後から再び場違いな軽いトーンの声が聞こえてきた。
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