第5話 ファイアボール(疑)

翌日、サバイバー用の端末で二人に連絡してみたが、返信が有ったのは道高さんだけだった。道高さんは肋骨三本にひびが入っており全治一ヶ月との事だった。

もう一人の事も確認してみたが、怪我自体は鼻の骨折と顔の打撲だけだったようだが、顔を殴られたショックで引きこもり状態になってしまったらしい。精神的なダメージから当面サバイバーとして復帰する事は無いだろうとの事だった。

二人ともすぐの復帰は期待出来そうになかったので、道高さんに了承を経て仮パーティを抜けることにした。そして学校が終わってから端末で設定を弄りソロ登録の申請をしておいた。

これで俺個人に対してGランクのモンスターが周辺に出現した場合は依頼が来るはずだ。


学校から家に帰って、夕食にカップ麺を食べていると早速端末に連絡音が鳴ったので、急いで端末を確認するとモンスターの出現を知らせる連絡だった。


「よしっ!」


俺は一人で気合を入れて自転車をこいで現場に向かった。

位置情報を確認しながら進んで、目的地の手前で自転車を降りて一人で進んで行く。

慎重に進んでいくと前方にゴブリンを目視する事が出来たが、実は一人でゴブリンに立ち向かうのは初めてでは無い。サバイバーになりたての頃に無謀にも一人で挑んだ事がある。

その時は残念ながら全く歯が立たずに殺されかけたが、たまたま他のサバイバーが駆けつけてくれて事なきを得た。

それ以来、絶対に一人では近づかないようにしていたが、一年以上ずっと我慢していたのと、手に入れた新しい力がゴブリンに通用するのか試してみたいと言う欲求に完全に負けてしまい、今こうしてゴブリンを目指しているが、緊張していないといえば嘘になる。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


まだ戦ってもいないのに全身から汗が吹き出して、心臓の音が激しさを増している。単純に恐怖から震えているのか、武者震いか自分でも分からないが、体が小刻みに震えている。

ただ一年間憧れ続けた一人でゴブリンを倒してみたい言う欲求が、他の全ての感情を凌駕して体を前に推し進めている。

イメージトレーニングは今日の朝から学校にいる間もずっとやってきた。


「やってやる。『ファイアボール』」


ゴルフボール程の火球が出現し前方のゴブリンに向かって飛んで行き、火球はすぐに着弾しゴブリンが雄叫びを上げる。


「グギャギャギャ〜!」


かなり痛がって怯んではいるが、致命傷には程遠い。

これは分かっていた事だ。以前『ファイアボール』を模倣して使用した事があるので、これでゴブリンが倒せない事は分かっている。


「まだまだ、いくぞ! 『ファイアボール』   『ファイアボール』」


『ファイアボール』を連発してゴブリンにダメージを与える。

昨日レベル2になったばかりの俺には余りスキルを連続使用出来る能力は無いが、その事もイメージトレーニングで織り込み済みだ。

警戒して近寄って来なくなったゴブリンに対して今度は俺から向かって行きゴブリンが身構える前に再び『ファイアボール』を放ち怯ませる。

俺はそのまま一気に懐に入り込み


「うおおっ!『ウェイブブレイド』」


スキルによるナイフ程の大きさの刃を右手に出現させてそのまま体ごとぶつかっていった。

昨日と同じく少しの抵抗感と共にスキルの刃はゴブリンの体に吸い込まれていった。

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