第3話 弱者の一撃
おかしい、こいつは明らかに通常のゴブリンの強度を超えている。
最下層パーティの俺達には通常Gランクのゴブリン退治しか回って来ない。だが霧の中にいる眼前のモンスターはそれよりも一回り大きくそして強い。もしかしてあれってホブゴブリンじゃ無いのか? Gランクのゴブリンの強化種。実物を見た事は無いがFランクのモンスターだ。
ホブゴブリンは、道高さんを退けて、今度はこちらに意識を向けたようで向きを変えて向かって来ようとしている。
「やばいです。早く攻撃を!」
「おおっ『ファイアボール』」
再び火の玉が飛んで行き命中する。
「ギャアアアア〜!」
『ファイアボール』が着弾して痛がる素振りは見て取れるが、消滅する事は無く大きな奇声と共にこちら目掛けて走り出して来た。
やばい。『ファイアボール』に対する耐性があるのか単純に威力の問題か分からないが倒せない。
ホブゴブリンは猛然と走ってきて俺のすぐ横に立っていたメンバーを思いっきり殴りつけた。ただのパンチだが、一発で完全にノックアウトされてしまった。
やばい!
そう思った瞬間ホブゴブリンが俺の方を向き目が合ってしまった。
このままでは殺される。
逃げるしか無い!
攻撃手段を持たない俺では対抗のしようがない。
俺は全速力でその場を離脱しようとしたが、ホブゴブリンがそれを許してくれるはずがなかった。逃げようとした瞬間服を掴まれ数メートル先に放り投げられてしまった。
「ぐうぅ〜!」
急いで起き上がって逃げ出そうとした瞬間、ホブゴブリンが飛びかかってきて馬乗りで身体の動きを完全に押さえつけられてしまった。
「くっ!」
すごい力で押さえつけられ、全く起き上がる事が出来ない。
完全に詰んだ……
脳裏には走馬灯のように今迄の人生が浮かんで来た。
まだだ! 俺はまだ死ねない。十六歳でこんなところで死ぬのは嫌だ!
『ウェイブブレイド』
俺は、無理矢理右腕を引き抜いて動かし『フォッグ』を諦め、道高さんがさっきまで使用していたスキルを模倣して『フェイカー』を発動した。
俺の手に現れたのはスキルによる刃渡り三十センチ程の小さなブレイドだった。
普通であれば俺のレベルで目の前にいるモンスターにこのような超近接武器を突き立てる事は不可能だっただろう。
ただ今は馬乗りと言う極めて密接した状態だ。
俺は思いっきりホブゴブリンの腹を目掛けてブレイドを突き刺した。
少しの抵抗感を感じたが無視して根本まで刺さったブレイドを抜いて力の限り何度も腹に刺した。
「うおおおおおおおおぉおおおお〜!」
己の全てを賭けた渾身の気合いと共に必死で攻撃を加えていると、突然ホブゴブリンが消滅して、その場には魔核が一個残された。
「助かった………」
この瞬間俺は奇跡的にホブゴブリンを倒す事に成功した。
もう一度やれと言われても同じ事は出来ない。完全にまぐれ。奇跡が起こったとしか言いようがないが、とにかく俺は生き残る事ができた。
「助かった………。ううっ!」
ホブゴブリンに飛び乗られた部分が痛む。骨は大丈夫そうだが打ち身が酷そうだ。無理矢理動かした右腕も痛む。
「そうだ、他の人達は?」
俺は冷静になってから慌てて他のメンバーを探す。
「ヒィイイ……」
まず、顔を殴られたメンバーは鼻が完全に折れてしまっている。もしかしたら他にも骨折している箇所があるかもしれない。
道高さんも息はあるが意識が無く、先行していたサバイバーは肩を噛みつかれたようで防具ごと抉られていたが、こちらも息はある。
残念ながら、医療技術を持たない俺に出来る処置は無いので、急いで組合に連絡してから救急車を呼ぶ。
救急車を呼んだのは初めての事だったが、サバイバー用の端末に緊急連絡ボタンがあったので押すと組合のオペレーターに繋がり即座に手配してくれた。
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