第2話 二体のゴブリン

サバイバーのレベルは直接モンスターに攻撃を繰り返さない限りは上がらないようで、サバイバーを一年間続けているが、攻撃手段を持たない俺のレベルはいまだに1のままだ。

それでもサバイバーになると、国の機関から一人暮らし用の部屋と最低限の生活費が保証されているので、母子家庭で生活の苦しかった俺にはスキル発現と同時に選択肢はこれしかなかった。

今の収入は平均すると月に三万円程度で、もう少し多い月には少額だがが母親に仕送りをしている。それでも以前の生活に比べると格段に良い。

俺はサバイバーになったお陰で、学校にも通う事が出来ているのでヘボスキルとは言え発現したこのスキルには感謝している。

現在日本にはスキルホルダーは三百万人程度と言われているが、スキル発現のタイミングは人によっても全く異なるので潜在的に一千万人以上いるのではと推測されているが、その中でサバイバーになっている人の数は全国で三十万人程度らしいので今や国防には欠かす事の出来ない存在となっている。


「ピピッ」

「今日は二体目か、珍しいな」


サバイバー専用のスマホ型端末にモンスターの位置と仮メンバーからの要請が入って来たので、すぐに身支度を済ませて、自転車で現場に向かう事にした。

組合とメンバーからの呼び出しに応えて自転車を全力で漕いで現場に到着すると、他の2名も既に到着していた。


「お待たせしました。敵はどこにいるんですか?」

「この先三百メートルぐらいの所だ。他のソロの奴が先に行ったから、もしかしたらもう終わってるかもな」

「あ〜すいません。これでも結構急いできたんですけど」

「まあいい、すぐに向かうぞ!」


メンバー三人で固まって用心しながら前に進む。


「ヒィイいい〜」


突然前方から人の悲鳴の様なものが聞こえてくる。


「急ぐぞ!」

「はい」


駆け足で進んで道の角を曲がると、モンスターがサバイバーに馬乗りになっているのが見えた。


「みなさんいきます。『フォッグ』」


俺はすぐにスキルを発動して臨戦態勢に入る。


「道高さん、あれってゴブリンですか? 何かいつもより大きい気がするんですけど」

「大きくてもあの見た目はゴブリン以外の何者でも無いだろ。やるぞ!」

「わかった」


もう一人のメンバーが『ファイアボール』を仕掛ける。

敵モンスターは『フォッグ』の効果と先着のサバイバーに馬乗りになり意識がこちらからは逸れていたお陰で、見事背中に命中した。


「グギュア〜!」


ゴブリンの叫び声が聞こえて、前方で道高さんが『ウェイブブレイド』を発動するのが見えたので、今回もいつもの様にこのまま仕留める事が出来ると思ったが、残念ながらそうはならなかった。ゴブリンは『ファイアボール』を耐え切り、立ち上がって道高さんに応戦したのだ。

先程の『ファイアボール』はゴブリンに致命傷を与える事は出来なかったようで、正面から道高さんの『ウェイブブレイド』を完全に受け止めている。


「攻撃してください!」


動きの止まったメンバーに声をかけて『ファイアボール』で追撃をかけてもらう。

レベルは俺が一番下だがサバイバーとしてのキャリアは俺が1番長いので、咄嗟に指示が出せた。


「おおっ『ファイアボール』」


道高さんと組み合っていたゴブリンは背中がガラ空きとなっており、再び『ファイアボール』が命中し、着弾して怯んだところを、再び道高さんが、斬りかかる。

スキルで発現した剣はゴブリンを袈裟斬りにしたが、残念ながら倒すには至らずカウンターでゴブリンの右ストレートをモロにくらい道高さんは後方へと吹き飛んでしまった。


「ううぅっ……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る