暗黒が齎すは衝撃と恐怖

ちょこっと

第1話

 推しが尊くてSAN値回復。私あるあるだ。




「こらー! 今度は何でまた喧嘩してるのーっ」


 毎日繰り返される幼児たちの兄弟げんかに、家事の手を止めて仲裁に入る。だいたい、喧嘩両成敗。たいていが、どっちもどっちだ。私だって子どもの頃はとかく姉妹喧嘩したものだ。分かる。分かるわ。でも、こうも毎日は本当勘弁して。ごめんて。もう、母の気力体力は0よ……


 家事して育児して、片付けて散らかされて、洗濯して汚れ物が出て……賽の河原の石積みかってくらい、エンドレスそしてエンドレス。




 家族の寝静まった深夜。


 取りい出したるは、我がスマホ。


 アプリを起動して、お気に入りのゲームが開かれる。


 っはー、癒される。まるで異世界へトリップするように、ゲームを楽しむ。忙しい日々の合間に、手軽に出来る息抜きだ。


 独身の頃のように遊びに行くなんて、到底出来はしない。ワンオペ育児の幼児母となった今は、手軽さが必須だ。遊びに行く為にお洒落するだとか、自分の為に何かをする時間はなかなか取れない。そもそも、幼児連れで遊びに行くとなると、大体公園とかだ。男児二人、すぐにはしゃいで大声でキャーキャー楽しそうに転げまわる。


 長男一人の頃は水族館によく行ったなぁ、なんて思い出す事もあるが、幼児二人で走り回り追いかけっこしてしまう今は中々難しい。後もう少し下の子が大きくなって、館内で走り回ったりしないようになってからかな、なんて。


 インドアで外出時は常に日傘装備だった私が、男児母となってからは、日焼け止めすら忘れて公園で子どもを追いかける日々。朝から晩までクタクタになって、気絶しそうな日々に、自分のケアさえする時間が中々取れない日々に、SAN値も減ろうというものだ。


 頼むから、少し、少し休ませて~。少しだけ【おかあさん】から【わたし】に戻る時間をくれ~。一秒だって休みなくお母さんって、それを年単位で、本当に全く休みなしって、しんどーーーい。


 そう、ゴリゴリ気力が削られていった日々も、やっと下の子が夜泣きしなくなってきた。


 こ、ここまで、長かったぜ……


 しかし、上の子の出産から数年。自分のケアも怠ってというかロクに出来なかった日々。まずは肌ケアしながら深夜のゲームで体も心も回復をはかりたいところである。


 今、流行りのツインテールワンダーランド、異世界転移するかの如く転移してしまうヒロイン。イケメンだらけで、なんだよくある乙女ゲーか、砂糖吐きそうな甘々溺愛展開は苦手なんだよねと思いながらも、基本無料だしやってみるかと手を出した。


 と・ん・で・も・な・い!


 原典ありで作られたストーリーは、元を知っていれば知っている程に深く楽しめる小ネタ満載。細部まで作りこまれた完成度には舌を巻く。

 更に、ちやほや溺愛など一切無し! 笑いあり泣きあり青春あり。しかもさり気なく風刺的な要素も見受けられた。なんてこったい! 凄いハマった。


 そんな、推しゲームに触れる時間は、お母さんから私に戻れる僅かな時間。


 はぁ、今日も癒された。


 そう、少しずつ進めているストーリーに浸ろうとしたその時!


 今夜も再び私を襲ったのだ。漆黒の恐怖が。


 お分かりだろうか? スマホゲームを愛する同士達よ。


 そうだ。暗転だ。


 場面転換や、一話が終わる度に、画面は暗転する。


 そうだ。スマホ画面に映るのだ。


 寝る前の、気を抜きまくったノーメイクの自分が。場合によっては、パックをした自分が。


 ひょおおおおおおおおおっ!


 分かっていた。分かっていたのに、やはりクると慄いてしまう。


 あぁ、スキンケアと小顔マッサージ、また頑張ろう。


 推しの尊さに癒されて、明日への活力とする日々である。

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