第7話
ここはどこだろう?
意識的に思ったのは、そんな言葉だった。
もし、ここが、病院なら、知らない天井、のような、一度は言ってみたい言葉を、口にしたかもしれない。
辺りを見るからに病室ではない。というよりも、家の中でない。外でもない。
真っ白でないが、謎の空間。意識だけが切り離され隔離された感覚がする空間。
もしかして、死んだ?
そう結論付けたのは、主観でしかないが、神様とあっていた空間の記憶しかないから。
死んだ記憶はない。なら、転生直後に瞬殺という可能性もある。
この場合、責任はこっちにはないはず。
記憶というよりは記録というべきか、頭の中に残っているのは、名前が小鳥遊 結 女の子のような名前だが性別は男。そして、いま神社らしきところにいる、ということから瞬殺の可能性もない。
名前からして日本人か、それに近い文化がある国。
服装は、紋付袴に似た物。背格好から4,5歳ぐらいだろうか。ただ、鏡に映った姿なので、確定、とは言えないが。
状況からして七五三的な行事だろうか。
だとしても、この謎空間にいる理由がわからない。
これが、いま、知りうる限りかき集めた彼の情報だった。
モヤっとした?
空間が歪んだような気がすると、腕が生えた。
比喩ではなく、ぱっと見、何もない空間から腕がまっすぐに伸びてきた。
次いで頭。上半身と続き、胸と少し出てきたころだろうか、上半身が上がり顔が正面を向いたところで動きが止まる。
「なんだてめぇ。」
目があい、秒で威嚇された。
先客としてはこちらが先なのだが、気まずいという感覚がないのかな、そのまま押し返したらどうなるのだろう、という思いはあったものの、
「どちら様で。」
と、挨拶をするあたり、動揺していたのだろう。
そもそも、出現当初から、ぬるぬる動くっこういうことかなぁ、という感想や、結界のような、何かが張ってあるのかもしれないや、話題になったホラー映画のようだなぁ、と思い浮かぶが、他にもっと危機管理的な要素で思うことがある時点で軽くパニックに陥っているといってもいいようなものだ。
他の人が、経験することができない人生を過ごした経緯があるのだが、そんな経験は置いてけぼりである。
いや、経験があったころこそ挨拶という結果になったのかもしれない。
「俺を知らないのか。」
「知りませんが。」
「チッ。」
「てめぇ、どこのもんだ。」
舌打ちされた上に、やっと全身を出したと思ったら、何処の不良だよ、とツッコミを入れたくなるような発言。
ただ、こういうところにいる時点で不良の方が何倍もましな気もしないではない。
全身灰色に統一された衣装。指の半分はあるのではないかと感じる爪の長さ。黒い目に、金色の瞳。異様ということを体現したといっても自然と納得をする空気がそこにいた。
「不真面目で仕事をすることが嫌いな人の部下ですが。」
部下ではないが、この際、問題はないだろう。
一応は、担当だし。保護対象者に指定されているし。被保護者に連絡を通しているし。なぜか、引いたら負けのような気がすし。
被保護者は、ざっくりと、この世界の神的な存在というだけで、誰なのかは不明であるが、少なくとも目の前の存在よりは上位にいるはず、という安易な考えのもと、多少強気にでても大丈夫じゃない、という意識が無意識化にあったようだ。
あと、自己保身。
「不真面目、、、もしかして、怠惰か、」
「魔王の眷属がいまさからここに。」
この世界に何かあるのだろうか。ただ送り込まれたただけなのだが。
不真面目といっただけで、何故か魔王の眷属にされた。これ如何に。
ただ、そう思っているのは本人だけで、実際は、その過程を通った過去があるので、大きく間違っているわけではない。
本人が知らないだけなのだ。
あえて言うなら、元怠惰の魔王だが、それを彼が知らないだけ。
「行ってこいって投げ飛ばされただけなのですが。」
「さすが、怠惰、説明なしか。」
「なら、この、、、んあー、、、俺様が教えてやる。」
何が、さすがなのかわからないうえに、言葉の間と間に考えていることが目に見えてわかる行動と間をとっていたが、とりあえず、教えてくれるらしい。
「ここはなぁ、ボーナスステージだ。」
「ボーナスステージ、ですか。」
「そうボーナスステージ。」
「なるほど。」
「うっお。あぶな。」
ストレートパンチを撃つかのように振り下ろされた爪を腰を引くようにして、地面? に背中から倒れるように躱した。膝と足裏に力を入れて伸ばすようにして距離をとろうとするが、たいして距離を稼げなかった。
爪で大きく振り下ろす攻撃がなかったら、なるほどの次は、わからん、という言葉が続いていただろう。
何のボーナスステージかわからないのだから仕方ない。
ただ、攻撃を受ける前であるならば、保護対象としての身分があるので楽して儲ける的なことをおみ浮かべたかもしれない。
すべて、たられば、だったらいいな、程度の話だった。
仰向けに寝ている状態に追撃を入れるために両腕を上に伸ばしハの時になるようにして振り下ろされた両爪を、反射的に、両腕を上げ、瞬間的に魔力が腕にまとわせ防ぐ。
本能的に防御行動をとった結果だからなのだろう。
見てわかるほど、明らかに多く込められた魔力は、振り下ろされた爪を受けた瞬間、ギンッ、カンッ、ガツッ、と重く低い金属がこすれるよな音を立てると一気にはじけた。
相手は下から打ち上げるを直に浴び、その勢いのまま体を持ち上げられ後ろに吹き飛ばされ、彼は、尻から下を引きずる形で後ろに追いやられた。
彼にとって幸いだったのは、この地面?が砂利やアスファルト舗装出ないことだろう。
砂利なりズタズタに服ごと足や尻が避けていたし、アスファルトなら、尻や足の裏が摩擦でこすれ、水膨れをつくり、最悪、服が擦り切れていた。
さすが、謎空間というべきか、足もつけるし、倒れることもできるが、地面ではないからか摩擦が発生していないもよう。
結果として、地面?に接触していた部分の吹き飛ばれたことによる被害らしい被害は何もなかった。
ただ、彼の前世、前々世よりま文化水準が高くない、所謂、中世時代、ついでに、魔法もあり、魔物もいるファンタジー世界。
戦争が起これば、ボタン一つや、引き金を引いて済むようなものではないく、剣や、槍等の武器を振るい、魔法を撃つ。
お世辞にも治安がいいとは言えない世界で、魔物の討伐も他称認定魔王の討伐に参加されたれた経験もある。
いくらか気が緩んでいた、意識が戻って間もない、力が馴染んでいないという言い訳がある程度は通じるにしても、もう少し、まともな行動がとれた。
具体的には、地面?横になったときに横に転がりながら距離をとり、その間に魔法的な攻撃をする、爪で攻撃が来るのに合わせて結界を張り、防御を行い、そのまま結界で相手に押しつぶすように飛ばす、全身に魔力をいきわたり、巡らせることで瞬間的に身体能力を上げ強化して、相手より早く動き、懐に入り込みボディブローを入れる等々、出来たわけだが、そういった経験をすべて無駄にしかねない行動をとる結果となった。
スタートダッシュを決め、どこかの主人公のように初めから、俺つえええ、ということをするのに彼は、一歩どころか、だいぶ足りないようだ。
「チッ。いってえなぁ。」
「そんな見てくれでも怠惰の眷属ってわけか。」
頭を振りながら起き上がる相手は、いまので、納得したようだ。
「ここは他のやつの縄張り、ここで俺がお前をやっても俺のせいにならない。だから安心して、俺の糧になれ。」
何処に安心材料があるのかわからないうえに、誰に言っているのか不明、いや、僕に言っているのか。
テレビドラマの犯人は最後の最後で崖付近で聞いてもいないことまで自白するんだな、と思うことはあったが、目の前の相手にはそれと似たような何かがあるような気がした。
ただ、謎解きをするには、その道のほとんどが抜け落ちているので真相なんてわからないままだろうが。
それよりも、よその地で犯罪行為を行い逃げきれるのか、疑問である。
さらに上げるならば、縄張り意識が高い人種が自分の縄張りを荒らされて、はいそうですか、と見過ごす相手にしては、彼女のような存在なら当たりまだしも、いろいろ足りていない気がすると彼は感じていた。
「貴様、怠惰の眷属じゃないのか。」
「上司は不真面目といっただけで怠惰とは言ってないですよ。」
爪だけでしか攻撃してこない相手に防御のみの行動をしているからかそんなことを言われたが、戦いの場において能力的なことを相手に言うという命に直結することを馬鹿正直に言うことは普通になく。必要がなければ可能な限り手の内を見せないようにするの当然なのでは。
それとも、なにかしら派手なことをしないといけないルールがあるのだろうか。
あの人、ざっくり闇属性の女神でしか知らないから、ワンチャンあるかもしれないけれど、勝手に勘違いしたのは向こうなので攻められるいわれはないとのではないのか。
ふってわいたように思いうかべるが、特別に能力を使わなくても戦闘をできるので問題ないか。
結局のところ、行く着いたのがそういう事である。
どのくらい時間をかけたのかわからないが、上下左右、時には蹴り上げ、前蹴り等を合わせた攻撃に対して、彼は魔力が全身をめぐり、足、腕、体と、部位に合わせて魔力量を変えて防御や、回避に適したものにする。
一番初めのを除けば被弾らしきものはない。
さながら、防御や回避のためのチュートリアルといったところか。ただそうすると。
「決め手に欠ける。」
ということになる。
別段、防御や、回避、肉体強化に全振りする必要があるわけではないが、仮に全振りした場合でも、そのままタックルを決めて吹き飛ばしてからの馬乗りになり殴り倒す、攻撃の合間にカウンターを入れてダメージを蓄積させてフィニッシュブローを入れる、魔力に方向性を与えて打ち出しハチの巣もしくは大穴を開ける、といった選択肢があるわけだが、そういう考えがすっぽりと抜けきっているのか、忘れているのか。それとも、ないかこだわりがあるのか。
もしくは、それ以上のことをする必要がないほど相手が弱いか。
元からそうなのか、ここに来るまでにすべての力を使い切ったのか、わからないが、相手は殴る、蹴る、ひっかくでしか攻撃手段しかとっていない。
こういった不思議謎空間に来ることができるのだから少なくとも転移系統の魔法や魔術が使えても不思議ではないのだが、魔法や、魔術を含めて魔力的な要素が一切感じられない。
ボーナスステージと言っていたが、これ如何に。いったい誰にとってのボーナスなのか。相手にとってボーナスなら、こっちはチュートリアルかな、っと、思う余裕さえある。
「さて、どうしよう。」
攻撃にまわろうとしない状態で、どうしようも何もない、と思うのだが。本当にどうするのだろうか。
「マルチキャストぐらいすぐにできるようになってください。」
澄んだ声が聞こえると、相手の胸から両刃の刀身が細い剣が突き出ていた。
彼女が何やら口にすると剣が光、それが相手を包み込み、体中から煙が上がると力が抜けるようにしぼんでいき、霧が散るように消え、最後に残った赤い宝石が砕け散った。
彼女は彼に視線を移すと、呆れるような表情で一言。
「なにか。」
「いえ、なんでもありません。マイ、マスター。」
姿かたちは違うが本能的に彼女が誰なのかわかると、すぐに気の抜けた引き気味の腑抜けた声で答えていた。
何か、やらかした覚えがない。むしろ、何もしていないのだけど。
「そうですか。なら本題に入ります。」
異世界帰り? 知っている地球とだいぶ違う。 @y_o_u_u
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