第100話【スーパー国宝級の道具の対価は】
「オルトさん。私の時も結構アレだったからあまり言いたくはないですけど、今回のソレはかなりまずくないですか?」
「どうして?」
「だって、私の時の患者人形はその場限りの特訓用でしたけど、今回のハンマーセットはそのまま渡すつもりなんでしょ?
性能が他に漏れたら奪い合いになって最悪の場合、持ち主を殺してでも手にいれようとする者が出てもおかしくない品だと思うわよ」
特になにも考えてなかった僕にエスカが冷静にかつこっそりと教えてくれた。
(しまった、そこまでの考えは無かったな。
その問題をクリアしないとコレは渡す事は出来ないな)
僕が妙案を考えている時、クーレリアが目を輝かせて僕に迫った。
「それって、このハンマーを使えば私でも父さんみたいな武器を打つ事が出来るって事?」
僕の説明からは特にハンマーの特殊性に気がつかなかったクーレリアは『ちょっと高級なハンマー』程度にしか認識していなかった。
隣ではビガントがハンマーの希少度に顔をひきつらせていたが・・・。
「とりあえず使ってみていい?新品じゃないから試してみても大丈夫だよね?
お父さん鋼塊の予備あったでしょ?使ってもいい?」
「あ、ああ。それは構わないが、本当に娘に使わせてもいいのかね?
そのハンマーはかなり貴重な品だろう?」
「まあそれなりの品ではありますが、この品は使う人を選ぶのでお嬢さんが使いこなせるかは試してみないとわかりません。
ですのでもし、お嬢さんが使いこなせるならばお譲りしても良いかと思ってます」
「使う人を選ぶとは、どういう事ですか?」
(本当は誰でも使えるんだが、こじつけてでも誰でもは使えないとしないとエスカの言葉通りに奪い合いになるかもしれないから後付けでロックをしておこう)
僕はそう結論づけると都合の良い設定をふたりに説明した。
「このハンマーは相方の指輪をつけないと重すぎて使えませんが、この指輪も魔力に反応して持ち主を補助しますので鍛冶士でありかつ魔力濃度が適切な者だけが所有者として認められるんです」
「なにそれ?そんな魔道具聞いたことないんだけど。
それって、もしかしなくても『国宝級』の魔道具なんじゃないの」
クーレリアがようやくハンマーの価値に気がついて青い顔になり、あわてて僕にハンマーを返そうとしたので、それを制止して使ってみるように促した。
「とにかく一度使ってみて欲しい。
使いこなせるならばクーレリアさんには素質があったというだけですから」
「ーーーわかりました。では試させて頂きますね」
クーレリアは緊張から言葉づかいまで丁寧になりながらも鋼の試し打ちの準備を進めた。
「では、始めます」
クーレリアが作業に入ろうとした時、僕が思い出したように彼女に声をかけた。
「あっ!ちょっとまってもらえるかな?
クーレリアさんは鋼を打つ力とタイミングが未熟だと言われていたのでついでにこの魔道具も試してみてよ」
僕が取り出したのは吸盤に水晶体がついたものだった。
それを台に設置すると「どうぞ」と試し打ちを促した。クーレリアは少し疑問に思ったが意識を鋼打ちに向けると作る剣の形を想像しながらハンマーを振り下ろした。
「軽い!なのに力強く鋼が整形されていく」
カーンカーン。カンカンカンカン。
クーレリアの打つハンマーの音が工房内に小気味良くリズムが鳴り響く。
クーレリアの顔が初めての感覚に高揚して笑みがこぼれる。
側ではビガントの顔が
「ここからが一番難しいところだ。
鋼の温度と固さを把握して打つ力加減を調整しないと本当に高品質な剣は出来ない」
ビガントが自分に言い聞かせるかのように呟く。
「クーレリアさん!ここからはさっきの水晶体の色を確認しながら強度調整をしてください。
赤色が濃くなったら温度が上がっているので優しく。
青色が強くなったら温度が下がっているので強く叩くか火入れをして温度を上げる」
「わかりました!」
クーレリアは僕の言うとおりにハンマーを操り、鋼を正確な厚さに仕上げていった。
そして数十回の火入れと鋼打ちを繰り返した剣にクーレリアは仕上げの磨きを施した。
「出来ました・・・。綺麗・・・」
磨きあがった一振りの剣はうっすらと青白く光を放っているかのように見えた。
完成した剣に見とれているクーレリアと対称的に
「これは!?なんだこの剣の出来は!
私が生涯を通してもたどり着けなかった域に届いているじゃないか!?」
「ほら、やっぱりまずいのではないですか?どうします?回収して帰りますか?」
エスカが剣の出来を見て僕にどうするかの判断を迫った。
「今さらそれは難しいかな。
仕方ないから幾つか制約をつけておくよ」
エスカとハンマーの扱いについて話していると、剣を置いたクーレリアがいきなり僕に抱きついてきた。
「オルトさん!このハンマーものすごく使いやすかったですし、この水晶体も凄く便利でした!
絶対に欲しいんですけど、これいくらなんですか?」
目を輝かせて興奮するクーレリアとスーパー国宝級の品が普通の一職人に買える値段ではない事を分かっているビガントと値段の事を全く考えていなかった僕の間では微妙な空気が漂っていた。
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