第99話【頑張る女の子は応援したくなるもの】

「はっはっは。本当に良い鑑定眼を持っている兄さんだな。

 クレリの苦手な工程をここまで言い当てた人は今まで居なかったよ。

 私から見てもクレリの打った剣は綺麗きれいに見えるからな。

 いや、だがやはり兄さんの言う通り剣は命を預けるものだからクレリの腕が一人前になるまではクレリの打った剣は【観賞用】として売る事にするか」


 僕の話にビガントがのっかる感じで話をまとめていった。


「ちょっとお父さん!その話は許諾きょだく出来ないわよ!

 武器の神様が作った訳じゃないのに、いい武器ももうひとつの武器もお客さんが自分の目で見て買うんだからこっちが勝手に決めつける事は無いんじゃないの?」


 クーレリアは自分の打った剣が実用に耐えられないと言われた事に憤慨ふんがいして父にくってかかった。


「いいか、クレリ。

 普通の師弟ならば弟子は師匠の言う事を真摯しんしに受け止めて技術の向上に励むものだぞ。

 たまたまクレリはお父さんが師匠だから反発しても苦言程度で済ませてしまうけど、破門されてもおかしくない態度をとっている事はわかってるのかい?」


 いつもならば本当に苦言程度で軽口を叩いて終わるはずだったが、オルト達が居るのに加えてクーレリアが打った剣の本質まで見抜かれてしまった為に今後はビガントの剣と並べて売る訳にはいかなくなっていた。

 なにせ、オルト達とは初めて会ったばかりでどんな人物かも分からない為、他所よそでこの事を話す可能性があったからだ。


 もし、実用に乏しい剣を売っていたとの噂がたてば普通の剣も売れなくなる可能性がある。ビガントがこだわった理由はそこにあったのだった。


「とにかく私がそう決めたからクレリはもう少し腕をみがいてからにしなさい」


 ふたりのやり取りを聞いていた僕は話の意図がクーレリアの力量不足にあること。

 クーレリアは見た目活発ではあるがやはり華奢きゃしゃな女の子である為に鍛冶に必要な力が足りない事に問題があると考え、確認のためにビガントに聞いた。


「あの、今のお話を内容だとお嬢さんの鍛冶士としての力量が足りないから実用剣は売ることは出来ないとの事ですよね?」


「ああ、そうだな。

 この後でクレリの打った剣は別の棚にまとめて観賞用としての札をつける事にするから悪いが他所の場所でうちが「なまくら剣を売っていた」とか言わないでくれないか?」


 本来、口下手であるビガントが必死になってお願いをしてきたのを見て僕は本当に申し訳ない事をしたと思い、ふたりにある提案をした。


「もちろんそんな無粋な事をするはずが無いですよ。

 クーレリアさんが打った剣でもカイザックに持っていけば十分通用するレベルですし、剣を買いに来たお客全員が一流の剣を求めている訳ではないと思いますよ。

 ただ、せっかくお嬢さんの鍛冶士レベルを上げる修行をする予定があるならば僕にも少しお手伝いをさせてもらえないかと思いましてね」


「修行の手伝いだって?

 兄さん鍛冶士だったのかい?・・・ってそんな訳ないか、もしそうならば改修工事の仕事をわざわざうちに持ってきたりしないだろうからな」


「ええ、もちろん違いますけど私の妻が商人でして、先日ちょっと珍しい道具を仕入れたのですよ。

 鉱山の街リボルテならば需要があるかと持ち歩いてました。

 興味がおありならば試してみてはどうですか?

 お嬢さんみたいな非力な人が大の大人並みに扱うことの出来るハンマーと付属品ですけど・・・」


 僕はそう言うと鞄からハンマーと指輪を取り出した。


 これは実を言うと自分で使おうと思って作っていた品で、良い物が見つからなかったら鉱石を買って自分で加工するつもりで作って持ち歩いていたものだ。


「ハンマーは分かるとして何で指輪が必要なの?」


 やはり真っ先に興味を示したのはクーレリアだった。

 僕は先に指輪を彼女に渡して利き手の中指にはめてもらいその後でハンマーを手渡した。

 それを受け取ったクーレリアはハンマーの握り感や重さなどを確かめていた。


「これ、ものすごく軽いんだけど本当にこれで鋼が打てるの?

 なんか打ってる途中でハンマーのが先に壊れそうなんだけど・・・」


 クーレリアは不安を口にしながらハンマーを返してきたので僕はそのまま今度はビガントに手渡した。


「なっ!?なんだこのハンマーは?とてつもなく重いぞ。

 本当にこんなもの鍛冶打ちに使えるのか?」


 ハンマーを重そうに持ち上げるビガントを見てクーレリアは不思議そうな顔をして父に言った。


「えっ?お父さんったら冗談は止めてよ。

 そのハンマー凄く軽すぎて使い物にならないんでしょ?」


 クーレリアは父の手から“ひょい”とハンマーを受けると“ぶんぶん”と鋼を打つ真似をした。


「ほらー。こんなに軽いハンマーじゃしっかりと打てないでしょ?」


 その光景を唖然あぜんとした表情で見るビガントに僕が説明をした。


「そのハンマーは魔力によって重力負担が変化する特殊なギミックが施されているんだ。

 だからその魔力操作の指輪とセットで使わないと本来の力は発揮出来ないですよ」


 僕がなんでもないかのように説明している横でエスカが呆れた顔をしてため息をついていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る