第98話【商魂たくましい看板娘クーレリア】
「ひぃっ!?」
店主の姿にエスカが小さく悲鳴を上げた。
「ほらぁ、だからいつも言ってるでしょ!お客様の前に出る時はハンマーは置いて来なって。
それ見て逃げ帰るお客様が結構いるのよ!どれだけ損してるか分かってるの?」
親父さんは娘の的確な指摘に頬をかきながら「悪りぃ、仕事中だったから」と素直にハンマーを側のテーブルに置いてからこちらを向き直り挨拶をしてきた。
「驚かせて悪かったな、この工房の店主をしているビガントだ。こっちは娘の・・・」
「看板娘のクーレリアよ。
お父さんは口下手だから私が注文を受けてるの。
今日はどんな依頼なのかしら?」
見た目に負けず、ゆったりとした動作で対応するビガントに代わってテキパキと接客をこなすクーレリアの手腕に感心しながら僕はデイル亭の改修工事の話をきりだした。
「ふむ。デイル亭といえば、つい先日完成させたばかりの宿屋じゃなかったかな?
こんなに早く改修工事をするとは何か不都合でもあったのか?」
自信をもって建てた宿屋を一月程度で改修の話をもってこられたビガントは何か不備があってクレームに来たと勘違いをして焦っていた。
「ああ、そうではないんですよ。
実は彼女、エスカートが治癒士として診療所を開業することになったのですが、女性ひとりで一軒家を建てるのはコスト的に厳しいのでデイル亭の隅を間借りさせてもらうことになったんです。
それで簡易的で良いので間仕切りをして欲しいと思いましてお願いにきたのです」
「ほう。お嬢さんが開業ですか、いや大したものだ。
うちのクーレリアと同じくらいの歳に見えるのに、もう一人前の仕事が出来るとは、クレリにも見習わせないといかんですな。
わかりました。明日にでも現地で打ち合わせをしてから仕事にあたらせてもらうよ」
「よろしくお願いします」
仕事の予約を済まして帰ろうとする僕達をクーレリアが呼び止めた。
「あっ、お客様。せっかく来店されたのですからついでに武器や防具を見て行きませんか?
きっとお眼鏡に叶う一品があるとおもいますよ」
「そうだな。せっかく鍛冶屋に来たんだから武器もだけど日用品の金物も見ておこうか。
エスカも何か必要なものがあったら遠慮なく言うようにね」
僕はそう言うとお店の販売コーナーに置かれている商品を見てまわった。
「なるほど、なかなかの品揃えだな。
このショートソードなんかはよく鍛えられている。
このレベルの剣はカイザックでは見たこと無かったな」
「あははは、お客さんリボルテの街は鉱山の街だよ。
カイザックみたいな貿易の街とは違って腕の良い職人が多く住む街だからね。
自然といい物が並ぶ事が多いのは当然ですよ。
ところでお兄さん、その隣の剣はどうですか?」
クーレリアは僕が手に取ったショートソードがあった所の隣に置いてある剣を指して言った。
「ん?この剣かい?・・・ああ、これは駄目だな。
確かに見た目のデザインは格好はいいけど実践向きじや無さそうだ。
観賞用ならばアリかもしれないけどね・・・ってどうかしたかい?」
僕はクーレリアの意図を理解せずに見たままをストレートに言ってしまっていた。
「!!・・・・・っ」
「ほう。兄さんなかなか良い目をしてるじゃないか」
僕の言葉に反応したのはクーレリアだけでは無かった。
口下手と言われていたビガントまでもが感心した様子で話しかけてきた。
「父は日頃は口下手なんだけど、武器のことになると急に
クーレリアがフォローを入れてから先ほどの剣を手にとり僕に聞いた。
「この剣の何処を見て実践向きじゃないと判断したかを聞きたいのだけれど・・・」
「やけに真剣に聞いてくるけど、その剣がどうかしたのかい?」
僕の問いには隣にいたビガントが答えてくれた。
「その剣はクレリが打ったんだ。
娘も一応鍛冶士の祝福を受けていて、私から見ればまだまだ半人前だが武器を打つ事も出来る。
その剣はクレリが打った数振りの中の一本って訳だ。
だから君が言った言葉の真意を知りたいって事だよ」
(なるほど。それで理由を聞くのをこだわった訳か・・・)
「言ってもいいけどそれで改修工事の仕事をやめたりしないでくださいよ」
僕は考えもなしに「この剣は駄目だな」と言ってしまった事を後悔しながらもクーレリアのこれからの技術向上のためにきちんと説明をしてあげた。
「まず、金属の焼きが足りない。
鋼を打つ時の温度がおそらく低いのと叩く力が足りないために、鋼本来の強度に達していないんだよ。
削りとかの加工技術はなかなかのものだから一見して鋭く見えるけど力の強い人が使っていると直ぐに剣の重心がずれて脆もろくなって最悪戦闘中に折れる恐れもあるよ」
「!!!!!・・・・ぐっ」
僕の指摘にクーレリアは涙を浮かべながら我慢して聞いていた。
それを見ていたエスカは僕をつついて「そのくらいで」と言ってきた。
(やべっ。言い過ぎたかな?)
僕はエスカに言われてハッとなり、全力でフォローできる言葉を頭の中に探した。
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