第76話【ディールの心からのおもてなし】
「デイル亭はここでいいかな?」
「看板も合っているし間違いないとおもいますよ」
ーーー僕とシミリはディールに教えられたお店『デイル亭』の前に立っていた。
ギルドからの帰りにも聞いたがディールは料理人らしく、食事処を開くつもりだったがリボルテは昼間に開けるただの食堂よりもお酒を提供できる宿屋のほうが需要が高く儲かるとのことで決めたそうだ。
「綺麗な建物ですね。
一階が食堂兼酒場で二階が宿屋といったところでしょうね。
でも、宿屋兼食堂だと家族三人だけじゃ回せない気がしますね。
まず、食堂の給仕人と料理人のセカンドを雇わないと宿屋がある限り家族全員休みなしになりますよね」
シミリが商人らしく経営分析をしだしたので僕は苦笑しながら手を引いてデイル亭のドアをノックした。
「はーい。どなたですか?
申し訳ないですけどお店はまだ開けてないんですー」
ドアの向こうからぱたぱたと走る足音をさせながら女性の声が聞こえた。
「ディールさんに呼ばれてきました。
オルトとシミリです。ディールさんは居ますか?」
僕は声の主にそう答えた。
すると慌てて部屋の奥に走っていく足音が聞こえてすぐに男性の声が聞こえた。
「お待たせしました!
ようこそデイル亭へおこしくださいました。さあ中へどうぞ!」
入り口から顔をだしたディールが満面の笑顔で僕達を迎え入れてくれた。
「まだ片付けが完全には済んでいないので、あちこち物が積んであるところもありますがご了承ください。
とりあえず食事を提供しますのでテーブルについて待ってもらえますか?」
扉を入ってすぐが食堂兼酒場になっていて2人~8人用のテーブルが幾つか並んでいた。
僕達は6人用のテーブルに案内され片側にふたり並んで座った。
前にある椅子にはおそらくディールと奥さんと娘さんが座る予定なのだろう。
「すぐに料理を出しますね。
私の自慢料理を是非食べてみてください」
ディールはそう言うと厨房へ入っていった。
数分後からサラとミスティが交互に料理を運んできたが(一体いくつ出てくるんだ?)と思うくらいにテーブル一杯の料理が並ぶまで追加された。
「お待たせしました。
私自慢の品々をお試しください。
あと、私の家族もご一緒させてもらいますね」
ディールがそう言うとサラとミスティが軽く頭を下げてからテーブルの席に着いた。
「では私も失礼して・・・。
では、オルトさんとシミリさんへ改めて盗賊襲撃からの救助のお礼をさせてください。
本当にありがとうございました。
今、私達がこうしていられるのはあなた方のおかげです。
あのご恩に見合うものには到底足りないとは思いますがゆっくりして行ってください」
ディールのあいさつで食事が始まり、僕達はそれぞれ料理に手をつけた。
料理は結構美味しいものが多く、おそらくすぐに人気がでるであろうと思わせる出来だった。
「美味しいですね。私、この料理気に入りました。
作り方を知りたいですね」
シミリが気に入った料理の作り方をディールに聞いていた。
その時僕は(食堂の料理レシピを聞くのはタブーじゃなかったか?)と思ったがディールは嫌な顔ひとつせずにシミリに教えてくれていた。
「凄く美味しかったです」
正直、日頃から調味料や香辛料を使った料理を食べている僕達には少し物足りない味だったが調味料これらを使わない料理でこれだけの味が出せれば間違いなく及第点はあるだろう。
「美味しかったですが、もう一段階上の料理も出してみませんか?」
「もう一段階上ですか?それはどういった料理でしょうか?」
ディールは料理人としての探求魂に火がついたらしく、すぐに食いついてきた。
「揚げ物に挑戦してみませんか?」
(この世界の料理は基本的に“焼くか煮るか”の調理がほとんどだから“揚げる”は未知の調理方法だ。
油を調達するのが難しいが調合レシピはすでに作ってあるから調合スキルが使える人ならば作れるようになるだろう)
「揚げ物?それはどんな調理方法なのですか?」
「油と言うものを使います。
ちょうど持ち合わせがありますので試しに作ってみましょう。
少し調理場を借りますね。シミリには調理サポートを頼む」
「はい。香辛料は使いますか?」
「ああ、スパイスの効いたやつでいこうか」
僕は猪の肉を取り出して小麦粉と香辛料をまぶしておき、鉄鍋で熱した油の中に次々投入した。
唐揚げが揚がるたびに香辛料の香ばしい匂いが厨房に広がっていった。
「なんだこの食欲をそそる香ばしい匂いは!?この“油?”というものは何ですか?」
「まあまあ、もう少しで出来ますので見ていてください。
シミリ、マヨネーズの準備も頼むよ」
程なくして猪肉の唐揚げが完成した。
「本当は鳥肉で作るのが柔らかくていいんだけど素材がなかったから猪肉で代用してみたんだ。
どうぞ食べてみてください。あ、熱いので気をつけてくださいね」
ディールはフォークで唐揚げを突き刺してかじってみた。
「なっ何だこれは!?口の中に広がる何とも言えないジューシーな味わいとパンチの効いた香辛料の旨味。
それにこのマヨネーズとか言う調味料は何だ?甘酸っぱい?味が料理にマッチしている!こんな料理初めて食べたぞ!」
「どうです?お酒のつまみとしても人気が出ると思いませんか?」
僕はどや顔でディール家族に唐揚げを振る舞うと、食事の後と言うのに3人とも黙々と平らげていき、最後にディールは僕に言った。
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