第75話【オルトの調薬対価は気分次第】
「オルトさん。
今回は本当にありがとうございました。
おかげで家族全員無事に新居にたどり着く事が出来ました。
今回の件をギルドに報告して正当な功績ポイントをオルトさんに付与してもらう為に私が説明に来た所ですよ」
声の主はディールだった。
妻と娘は家で片付けをしているとの事だったので一緒には来ていなかった。
(そういえば、冒険者ギルドで待ち合わせをしていたんだったな)
「わざわざ来てもらってありがとうございます。
では報告を一緒にお願いします」
僕はディールと一緒に依頼報告のカウンターに行き、盗賊捕縛の報告を行った。
「えっ!?あの守衛室から報告があがっている盗賊捕縛の件はあなたが一人でした事だったのですか?
本当に?十数人もいたと聞いていましたが・・・」
「はい。一応そうなんですが、ちょっと声が大きいですよ。
あまり目立ちたくないのでもう少し小さな声でお願いします」
「あっ、しっ失礼しました。
あまりにも驚いたものでしたので。
えっと、現在オルト様はCランク冒険者でしたね。
今回の功績はギルドポイントに加算しておきますね。
そしてこちらが盗賊捕縛に対するギルドからの報奨金になります」
「ありがとうございます。
それでは僕はこれで失礼します」
僕は出された袋を受けとると早々にギルドを出ることにした。
「オルトさん。
この後、ご予定はあるでしょうか?」
ギルドを出た僕達はディールに呼び止められて予定を聞かれた。
「そうですね。
先ほどの女性と約束をしていますのでそちらに行こうかと思ってますが」
「それでは今夜の宿はお決まりですか?」
「いえ、まだ決めてませんが」
「では出来れば家に泊まっていかれませんか?
実はまだ着いたばかりですのでまだ営業はしてませんが、この度リボルテで酒場兼宿屋を開く準備をすませてカイザックから引っ越す際に今回の事件があったのです。
ですので今日は客室全て空いています。
お礼をしたいので是非泊まっていってください」
僕がシミリをみると彼女が頷いたのでディールの提案を受けることにした。
「ありがとうございます。
では先の約束が終わり次第、伺わせてもらいますので場所を教えておいてください」
「わかりました。
では後程お待ちしております。
ああ、食事も準備しておきますので他で食べないようにお願いしますね」
ディールはそう言うと宿の方向へ走って行った。きっと準備を急ぐためだろう。
「さて、約束の時間になりそうだからそろそろ行かないとな」
ーーーディールと別れた僕達は女性と約束した店に行き話を聞くことにした。
女性は廻りに聞かせたくない内容との事で個室をとっていた。
「お待たせしました。
では、お話をお聞かせいただけますか?」
「はい。私の名前はターナといいます。
このたびは話を聞いてもらってありがとうございます」
「先ほどお話だと古傷の治療をしたいとの事でしたが詳しく聞いてもいいですか?」
「はい。あまり見て気持ちの良いものではありませんが診てもらわなければ話が進みませんね」
ターナはそう言うと長めに延ばした前髪をそっと持ち上げて額を見せてくれた。
そこにあったのは大きな切り傷。痛々しく横方向に傷痕が残っていた。
「これは昨年、薬草採取の仕事をしていた時に大型の獣に襲われた時に爪で斬られた跡です。
その時は近くにいた冒険者が助けてくれたのですが簡易的な薬しかなくて傷痕が残ってしまったのです」
「なるほど、顔の傷痕は気になりますよね。わかりました。
新たに薬を作りましょう」
僕の言葉にターナは驚いて身を乗り出しながら質問をしてきた。
「えっ!?この傷痕、治るんですか?」
「そうですね。治せる薬は作れますよ」
「本当ですか?
あっ!でも調薬って凄く高いって聞いた事があるのですが、あまりお金に余裕がないんです・・・」
ターナは傷痕を治せると聞いて一瞬喜んだが、すぐに現実に戻されうつむいた。
「まあ、依頼調薬はそれなりにするものですからね。
ああ、そうだ。でしたらこの街の話を聞かせてくれるならば無料でもいいですよ。
僕達はこの街に来たばかりですのでいろいろ知りたいのです」
「話って・・・そんな事でいいんですか?」
「ええ、情報は対価ですからね」
僕はニコリと微笑むと軽く頷き、ターナにはシミリと話をしてもらった。
その間に僕は簡易調薬キットを取り出して塗り薬を作った。
「どうだい?シミリ。
良い情報は聞けたかい?」
調薬を終えた僕はシミリに首尾を聞いてみた。
「ええ。いくつか面白そうな話を聞けたわよ。
後で要点をまとめて話してあげるわね」
「うん。よろしく頼むよ。
じゃあこれが約束の治療薬だよ。
量は少ないけどすぐに効果があると思うから試してみるかい?」
僕は作った薬をターナに手渡して使うように促した。
ターナはその薬をおそるおそる額の傷痕に塗り込んだ。
「そのくらいで大丈夫ですけど、ご自分で確認されますか?」
僕は鞄から鏡を取り出してターナに渡した。
それを受けとるとターナはソッと鏡を覗きこんだ。
「えっ!?ない・・・。
傷痕がない?」
そこあったはずのあれだけ隠したかった大きな傷痕は跡形もなく消えていた。
「ーーー本当にありがとうございました。
このご恩は一生忘れません」
店を出た僕達にターナが何度もお礼を言ってきた。
それを少し照れぎみに受け止めながらディールの待つ宿へ向かって歩いていった。
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