第64話【リルの提案と婚姻の準備】

「シミリ、話は終わったのかい?ん?こちらの女性は?」


 従業員に呼ばれた僕はシミリのいる部屋に案内されたがゴルドは不在で代わりにいる女性がニコリと笑いかけてきたので思わず会釈をした。


「ゴルドの妻のリルと言います。

 いつも主人がお世話になっています。

 先日も主人の護衛を治療して頂いたそうで、本当にありがとうございました。

 良い調薬の腕をお持ちだそうで、当商会に卸して頂いている薬は評判も良く、従業員一同感謝していますわ」


 リルは商人特有の丁寧なお辞儀をして感謝の言葉を綴った。


「いいえ、こちらこそゴルドさんには大変お世話になっています。

 僕達らはまだまだ駆け出しですので商品を作っても販売ルートを持ってませんので、なかなか良い商売になりません。

 そこを縁があったとはいえ中規模商会のゴルドさんにお願い出来て私達も助かってますよ」


「それは良かったですわ。

 ところでオルトさんは薬師とお聞きしたのですが、化粧品関係はお作りになられないのですか?」


 やはり女性ならではの視点でチャンスがあれば商売に持っていこうとするリルはやり手の商人だった。


「化粧品ですか?

 リルさんはどういった物をお考えですか?」


 僕はあえて自分の意見ではなくリルの意見を先に聞いてみることにした。


「そうですね。

 今流行っている美白化粧品は体型に副作用が出る可能性があるので私の店ではオススメしていませんね。

 でも、今のところカイザックの街では他の良質な化粧品は手に入らないのです。

 ですから良い商品を作れればひと財産稼げる案件になりますわ」


 それを聞いた僕とシミリはお互いにちょっと見合ったがあの化粧品については触れないでおいた。


「そうでしたか。

 化粧品は僕の調薬スキルからすると少々はずれているかと思いますので今のところは手掛けてませんね。

 どちらかというと外見的なものより内面的な健康に関するものの方が向いてるかと考えていますよ」


「内面的というと具体的にはどういったものでしょうか?」


「そうですね。

 まだアバウトにしか考えてませんが、例えば“太めの方に痩せ薬”であったり“特定の栄養不足の方にサプリメント”とかもいいかなと思います」


 その言葉を聞いたリルは驚いた顔をして僕に質問をしてきた。


「そんなものが簡単に出来るものなんですか?

 それに今までそんな発想をする薬師なんて聞いた事ないですし、それに太めなのは裕福な印なので無理に痩せようとする人はあまり居ないかと思いますわ。

 あっ!貴族の奥方ならば需要があるかもしれないですね」


 それを聞いた僕は慌てて話をそらした。


「え?・・・。

 いえいえ、まだ試作もしてないので出来るかはわかりませんよ。

 それにリルさんが言われたように需要のない物をいくら作っても仕方ないですからしっかりとリサーチをしていきたいと思いますね」


「ふふふ、そうですね。

 もし良い薬が出来たなら是非ゴルド商会にも販売させてくださいね」


「ええ、その時は是非お願いしたいと思います」


 僕にニコリと微笑んだ後、リルはシミリに向き合い手をとって話し始めた。


「本当、シミリさんは良い人を捕まえたわね。

 主人に聞いたのだけれど彼は薬師としても領主様公認の腕前で尚且つ冒険者ランクは地方ギルド所属では上位にあたるCランクだそうね。

 これからいろいろと大変だけど応援してるから時々私のお店にも顔をだしてくださいね」


「はい。ありがとうございます。

 新米商人としてリルさんの助言を大切に成長していきます」


 そんな話をしている途中でゴルドが飲み物の追加を持ってきたので話に入ってもらった。


「やあ、いい話は出来ましたかな?

 やはり女性は女性同士で意見交換をした方が良いですかな?」


「そうですね。

 リルさんにはいろいろと教えて貰いましたので何か別の形でお礼をさせてもらいますね」


「まあ、それは期待しておきますね。

 あなた、おふたりから連絡があったらすぐに教えてくださいね」


「そうだ、ゴルドさん。

 さっきの指輪を手直ししたのですけど見て貰っていいですか?」


 僕はそう言うと細工を施した指輪を台に置いた。先ほどとは違い、銀色の光沢を放ったシンプルな指輪で外周に細い二本の溝が彫ってあった。


「見せて貰ってよろしいかな?」


 ゴルドは僕にことわってから指輪を手にとって眺めた。


「ふーむ。先ほどの指輪に比べると随分シンプルにされましたな。

 確かにこれならば目立って高価には見えないので良いのではないでしょうか。

 ところで、この二本の溝には何か意味があるのですかな?」


「ちょっとした細工をしてありますが効果は秘密でお願いします」


「そうですか。

 気にはなりますが仕方ありません。

 無理に聞くのはマナー違反ですからね」


「そうして頂くと助かります。

 ではこれを持ってこれからふたりで教会に行ってきます。

 ああ、そうだお布施とか登録料とかは必要なのですか?」


「教会の維持費名目で1人あたり銀貨一枚ほどだったと思いますよ」


「わかりました。

 本当に何から何までありがとうございました。

 では用事を済ませてから本格的に旅の準備にかかります」


 僕達はゴルドとリルに何度もお礼を言ってからゴルド商会を後にした。

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