第63話【シミリは妻としての心得を授かる】

「はじめまして。

 私はゴルドの妻でありゴルド商会カイザック中央店の店主をしている『リル』と申します。

 いつも主人がお世話になっているそうで、この度も新しい食事メニューの開発にご尽力頂いたそうですね。

 ありがとうございます」


 リルと名乗った女性はそこまで言ってから深々と頭を下げた。


「今、自己紹介したように彼女は私の第一婦人のリルだ。

 この場にはいないが、私には他にふたりほど妻がいる。

 皆カイザックの街に店舗を開いていて私の商売を助けてくれているんだ。

 実は昨日彼女が店舗報告に来た時に君達の話が出て、是非シミリさんと話がしたいと言い出したんだよ。

 今日来るとは限らないよと言ったんだが待つと言って店舗で事務処理をしていたんだ」


 いきさつを話したゴルドは「それじゃあ後は女性同士で」と席を外した。

 それを見届けたリルはシミリに向き合い話始めた。


「いきなりごめんなさいね。

 主人からあなたの事を聞いて一度話してみたかったの。

 商売については主人から話があったと思うから私からは『妻であり商人でもある』事について話をしてあげるわ。

 女性商人としての先輩からのお節介だけど聞いて損はないとおもうわよ」


 リルの言葉にシミリが頷くと手元の紅茶を一口飲んでリルが話し始めた。


「まずは婚姻についてかしら。

 主人からも説明があったと思うけどこの国は一夫多妻制度が認められているの。

 夫のゴルドには私自身の他にあとふたりの妻がいるわ。

 複数の妻を持つ男は何かしらの強みを持っているのだけど、私の夫は商才があったので今ではカイザックの街に4店舗を運営する中規模商会になっているわ。

 で、今回あなたの話が夫から出た時に4人目の妻をとるつもりなのかと思ったのだけど、よく聞いてみると既に狙いをつけた男が居ると聞いてちょっと興味がわいたの」


「それはどうしてですか?」


「あなたは商人として始めたばかりだから知らないと思うけど、女性商人が単独で商売をすることはまず無理なの。

 まず店を持つのはかなり難しいわね。

 それは資金面や仕入れ先とのやり取りの難しさなんだけど、それよりも絶対に無理なのが『行商』ね。

 女性主体で旅に出るなんて襲ってくださいと言っているようなものね。

 護衛を雇っても相当信用のおける人達でなければいつ盗賊に化けるかわかったものじゃないわ。

 その行商をやろうとしている女の子が認めた男ってどんな人か興味あって当然だと思うの」


「そうだったんですね。

 ならば紹介しましょうか?今は別室で作業をしているみたいなので」


「ええ、会ってみたいけれどその前にあなたに話しておきたい大事なことがあるのよ。

 それは、夫になる男の女関係についてよ。

 あなたの夫になる人はまだ未婚よね?

 つまりあなたが第一婦人になると言うこと。

 そこまではわかるわよね?」


「はい。でもそれが何かあるのですか?」


「あるに決まってるじゃないの。

 平民の場合は第○婦人と呼ばれるけれど貴族ならば本妻と側室くらい違うものなの。

 基本的に夫に意見を言えるのは本妻だけ、側室の妻達はただ夫に従うだけなの。

 まあ、私達は話し合いによって各自の店については最高権限は自分にあると決めたから不満は出ていないけれどね」


「そうなんですね。

 でもオルト君は他に付き合っている女性はいませんよ?」


「あなたも意外と恋愛には疎いようね。

 私は言いましたよね?

 能力のある男には女が集まってくると。

 あなたの夫になる人はあなたが認める高い能力を持っているのでしょう?

 だからあなたはそこにひかれて婚姻を結ぼうと思った。

 これからが大変よ。

 女性は既婚だと他の男は寄ってこないけど、男性は逆に既婚だと婚姻に抵抗がなくて、しかも何かしらの能力があると見なされて女が寄ってくるの。

 隙を見せたらおとされるわよ」


「ま、まさかぁ。

 オルト君に限ってそんなだらしない事はしないと思います・・・」


「それを阻止出来るのは、第一婦人になるあなただけだと良く覚えておいてね。

 私からはそれだけ、それじゃあ彼を紹介して貰えるかしら」


「あ、はい。それじゃあ、お店の人に伝言をして呼んできてもらいましょう」


 シミリは店の従業員を呼び止めるとオルトを呼んできて欲しいと頼んだ。

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