第57話【シミリと行商を始めるために】

 ーーーあれから僕達は今までに卸した商品以外は一般販売はしないことに決めていた。

 どれも今の世の中に出回るには高性能すぎるとのシミリの意見を僕が尊重した形になったからだ。

 あれらの商品が本当に必要な時は個々に特別販売するということで決まった。


「普通の行商がしてみたいです」


 話し合いの中でシミリが僕にお願いをしてきた。

 今までのシミリの商人としての実績は僕が提供する商品の販売交渉のみで自分での仕入れ販売はまだ経験がなかった。

 やはりシミリも商人としての経験を積みたいとの事であったがいきなり店舗経営はハードルが高いのでまずは行商となった訳である。


(行商か・・・。

 シミリは簡単に言うけれど、商人にとって行商は基本である代わりに一番過酷でもある商売方法でもあるんだよな。

 まず、馬車を準備しなければならない。

 当然御者が出来る者が必要。

 何を仕入れるにしても資金が必要であり不要な商品を多量に仕入れれば在庫を抱えてしまう事になる。

 街の移動をすれば通行料がかかるし、道中盗賊や獣を警戒して護衛を雇わなくてはならない。

 リスク管理も経費のうちとは言うけれどベテラン商人の真似は簡単には出来ないんだよな)


 だがシミリがやりたいと言う事は何とかしてやりたかった僕は何が必要かをすぐに頭の中に書き出してからシミリに言った。


「そうだね。

 見聞を広めるのとシミリの商人レベルの向上を目的にして行商をやってみるのも良いかもしれないね。

 でも、それにはまず馬車を手配しないといけないし当然仕入れもしないといけないからまずは商人ギルドに相談してみようか」


「そうね。商売や各街の情報もあるでしょうからギルドに行って確認してみましょう」


 意見が一致すると僕達は商人ギルドへ向かった。


 ーーーカランカラン。


 商人ギルドに入ると僕達に気づいた受付の女性が声をかけてきた。


「あっ!シミリさんとオルトさんじゃないですか。

 ちょうど良かった、オルトさん向けに調薬の依頼が出ていますけど、内容の確認をされますか?」


 僕は少し考えてから答えた。


「それって緊急性の高い依頼ですか?でなければ先にちょっと相談したい事があるのですが・・・」


「今の時点では緊急性はないのですが、街の医師連が緊急時に備えて発注したものなんです。

 ただ、この薬の調薬レベルが高い為になかなか受けて貰えなかったんです。

 ですから調薬の出来るオルトさんには受けて頂きたいです。

 あと、そちらの相談は内容によって私達受付で対応する案件、大物の手配やギルド間のやり取りだとギルドマスターか副ギルドマスターでなければ難しいかと思います。

 ギルマスも副ギルマスも今日は午前は忙しくててが開かないはずです。

 もし必要ならばどちらか午後に予約を取っておきますよ」


「そうですか、では先ほどの依頼を先にお聞きしましょう。

 その後でこちらの話を聞いてもらうことにします」


「ありがとうございます。

 では先にギルマスの予定を押さえてきますので少しお待ちくださいね」


 彼女はそう言うと奥の部屋に向かい、数分後には受付に戻ってきた。


「すみません。

 今日はギルドマスターは多忙で午後も予定を抑えることが出来ませんでしたが、代わりに午後の最初に副ギルドマスターの予定を押さえておきましたので、そちらの話はその時にお願いします」


 僕が頷くと彼女はファイルの中から依頼書を取り出して説明をしてきた。


「こちらが依頼の内容になります。

 えっと『養毛剤』の開発・・・って間違いました!こっちの依頼書です。

 中級回復薬と万能毒消し薬の手配です」


 中級回復薬と万能毒消し薬はレベルの高い薬師ならば素材さえあれば作ることが出来るが、地方都市レベルならば最高にあたる薬である。


「中級回復薬と万能毒消し薬ですか、いくつ必要ですか?

 数本程度ならば在庫で所持していますよ」


「えっと、それぞれ5本ずつとなっていますね。

 依頼金の方は合計10本で金貨2枚となっています。

 すぐに納品されますか?出来るならば依頼金もすぐにお支払いしますよ」


 僕は鞄の中身を確認してから彼女に答えた。


「ちょうど在庫分で足りそうですね。

 せっかくなんで納品しておきます。

 後日になると予定が狂うかもしれないので・・・」


「ありがとうございます。

 ではこちらの依頼完了報告書にサインをお願いします」


 彼女はテキパキと完了処理をしてくれ、無事に依頼金を貰う事が出来た。

 その後、昼食を近場の屋台で食べた後、副ギルドマスターとの面談のために再度ギルドに足を運んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る