第58話【副ギルドマスターの思惑】
指定された時間にギルドに来るとすぐに副ギルドマスターの部屋に案内された。
中に入ると仕事中だった手を止めて副ギルドマスターが挨拶をしてきた。
「やあ、この間は助かったよ。
あれから怪我の治った人達がお礼に来ていたよ。
今度会ったら何かしらのお礼がしたいと言っていたよ」
「えっと、どの件でしたかね?」
僕が記憶を探っているとシミリが助け船を出してくれた。
「ほら、ゴルドさんの護衛を治療したことがあったでしょ?
あの件ですよ」
「ああ、思い出したよ。
新薬の登録の時にあった案件だね。
そうですか、治療が上手くいって良かったです」
「ははは。オルト君はうちのギルド以外でも幾つか大きな治療をこなしているみたいだね。
あの新薬の評判も良いみたいだしね。
で、今日は何の用件かな?
また新薬ならば受付での登録だろうし別件なんだろう?
この間のお礼も兼ねて協力出来る事はしてあげるよ」
副ギルドマスターのラックは僕達を席にすすめるとメイドに紅茶を出すように指示を出してから向かいの席に座った。
「で、今日は何の用件だい?
受付でなく僕に話さなければいけない案件なんだろ?
厄介事かい?」
「いえいえ、大したことじゃありませんよ。
そろそろシミリに行商の経験を積ませてあげようと思いまして、それでこちらのギルドで行商用馬車の斡旋をお願いしたいのです。あと、商人ギルドで何か特別な物資を欲しがっている街の情報を持って無いかと思いまして・・・」
僕の話を聞いていたラックは(うーん。そうだな)と考え事をしていたが、良い事を思い付いたようでニンマリと笑いながら答えた。
「馬車に関してはギルド御用達の商人と技術者を紹介しよう。
商売の情報に関しては、そうだなひとつ取引をしようじゃないか。
情報は金だぞ、まさかただで手に入るとは思ってないよな?」
ラックは控えていた女性に何やら資料を持ってくるように伝えてから馬車の取り扱い商人への紹介状を書いてくれた。
そこへ先ほどの女性が幾つかの資料を持って部屋に入ってきた。
「ああ、ありがとう。
えーと、こいつが良いかな。
それとこいつも合わせて頼もうかな」
ラックは資料の中から二枚の書類をテーブルに置いて僕に説明してきた。
「君に頼みたいのはこの二件の案件だ。
どちらもカイザックから片道10日程の街“リボルテの街”への物資輸送だ。
品物は海産物の干物と酒、そして向こうの商人ギルドへの書状だ。
量的には馬車の積み荷の半分くらいを占めることになるから自分達で売る品物は厳選してくれ。
どうだ?やってくれるかい?」
「ちょっと相談させてください」
僕はシミリと一旦席を立って部屋の隅で今の内容について話し合った。
「特に怪しい部分は無かったですよね。
まあ仮にも商人ギルドの副ギルドマスターからの提案ですから商人を陥れる案件は無いと考えますが・・・」
「うん。普通ならばそうなんだけど、何か違和感があるんだよな。
騙すとかは無いのだろうけど何か隠してる気がするんだ。
ちょっとカマをかけてみようか。
どうせ馬車の確保に向こうの要求もある程度飲まないといけないだろうからね」
「分かったわ。
その辺はオルト君にまかせるね」
打ち合わせが済んだ僕達は再度ラックの前に座り幾つかの質問をした。
「幾つか質問があります。
まずどうして僕達みたいな初心者にこの依頼を斡旋しようとしているかです。
行商の旅は大変なものですよね。
道中の馬の世話から商品の管理まで向かう街への日数が多い程リスクも高くなりますし、ベテラン商人なら片道10日くらいは普通でしょうが初めて行く行商にしてはハードルが高くないですか?」
「ははは。オルト君はその辺の事情はよく知っているみたいだね。
確かに新人商人には少々ハードルが高いかもしれないけれど“君達ならば大丈夫だと判断したから”では理由にはならないかな?
現にオルト君は冒険者ランクもCランクだし、必要ならば護衛を雇えばいい。
報酬も内容に見合うものを用意してあるから損はないと思うんだけどね」
(確かに損はないと思える内容だ。
しかし、だからこそ他のベテラン商人に頼むのではなく僕達に任せようとするのか?
ただの親切か?それとも・・・)
しかし、幾ら考えても矛盾点が思い付かなかったのと馬車の手配の恩があるために引き受けることにした。
「分かりました。
では馬車の手配と運ぶ品物の手配をお願いします。
僕達も数日のうちに販売する商品の仕入れをしておきます」
「ありがとうございます。
では、手配の方は大体5日で出来ると思うから、その間にそちらの商品も揃えておくと良いだろう。
正式な契約を受付で交わしておいてくれると助かる」
「分かりました。
そのようにしておきます。
では、5日後にギルドに参りますのでよろしくお願いします」
僕達は受付で契約を済ませた後、何を仕入れるかの相談に乗ってもらう為にゴルドの店に向かった。
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