第56話【閑話2 もしあの時普通にお店に行ってたら】
「いらっしゃいませ!ミール女性洋服専門店へようこそ!本日はどんな洋服をお探しですか?」
シミリが店に入るとツインテールの子供がお決まりの挨拶をしてきた。
(子供が接客?この店の子供かな?)
可愛いフリルのついたワンピースを着て、ちょっと大人びたアクセサリーを首から下げていた。
店内には色々な系統の服が所狭しと並んでいて下着も特別コーナーが設けられていた。
(凄い品揃えね。
さすが女性専門店だけあって可愛い系からセクシー系までなんでもござれ状態だわね)
シミリが店内の様子に圧倒されていると子供店員?が話しかけてきた。
「お嬢さん。
どう言った
ああ、すみません。
わたくしはこの店の店長であり店主でもある『ミスリール』と言います。
お店の名前はわたくしの名前を縮めてミールとしていますの。
このお店は女性の為のお店。
お歳に関係なく全ての女性が美しく着飾る事が出来るようにとの配慮で仕入れをしています」
ミスリールと名乗った女性はシミリを上から下まで眺めると、驚いた表情でシミリに問いかけた。
「あなた、何故胸あてをされていないのですか?
それだけのサイズを支えるにはきちんとした下着を着けなければ肩にも負担がかかるし、殿方の好色的な視線を受け続けなければならないですよ。
全くをもって無頓着すぎます」
見た目子供のミスリール店長はシミリの不用意な服装が気になったらしく、あれこれと質問をしてきた。
シミリはミスリールの質問攻めにあたふたしながらも豊胸薬で急に大きくなった為に胸あて等の準備が出来なかった事などを伝えた。
「これが薬で大きくなった胸?
元々はギリBですって?・・・ちょっと失礼」
ミスリールはそう言うといきなりシミリの胸を鷲づかみにしてサイズを確認しだした。
(えっ!?えー?)
同性とはいえいきなり胸を揉まれたシミリはどう反応して良いか判らずに固まってしまった。
ミスリールはそんなシミリに構わずになにやらぶつぶつ言いながらシミリの胸を揉み続けた。
(あっあの・・・。
そろそろやめてもらえませんか?)
やっとの事でシミリが絞り出した言葉にミスリールが反応して胸から手を放してくれた。
「ああ、ごめんなさい。
何とも立派な胸だったのでサイズを計らせて貰いました。
そうですねGからHといった所ですからこちらの豊胸コーナーから胸あてを選ばれたら良いかと思いますわ。
サイズは品物に書いてありますが不安ならば試着をされても結構ですよ」
なんとも斬新なサイズの計り方だとシミリが思っていると横から店員が突っ込んできた。
「店長!そのサイズ計測はやめてくださいと何度も言いましたよね?
ちゃんとメジャーがありますからきちんと計ってくださいよ。
お客様がびっくりされているじゃないですか」
どうやらこの計り方は普通ではなかったらしい。
いきなりお客の胸を揉む店長。
本当に大丈夫なのだろうかこの店・・・。
シミリの脳に一抹の不安がよぎった時ミスリールが幾つかの胸あてをシミリの前に差し出した。
「大丈夫よ。
私の採寸は外れた事はないんだから。
この方にはこのサイズの胸あてがピッタリのはずよ。
あとはデザインだけどまだお若いから可愛い系がオススメね。
これを試着してみてくれますか?」
シミリは出された下着を受けとるとミスリールに促されるままに試着室に押し込められた。
服を脱ぎ、鏡を見ながら胸あてを宛てて改めてその大きさに驚くシミリであったが、それよりもミスリールのあの目茶苦茶な採寸の正確さと選んだ胸あてのセンスの良さに脱帽だった。
「如何でしたか?サイズに不備はありませんでしたか?」
試着室のカーテン越しにミスリールが聞いてきたのでシミリは答えた。
「こんなに楽になるなんて思ってませんでしたわ。
やっぱり専門のお店で教えて貰うのは大切なんですね」
「良かったです。
では次にこの服と靴そしてこちらのアクセサリーも試着してみてください」
試着室のカーテンを僅かに開けてミスリールが一着の洋服を中に差し出してきた。
シミリは胸を揉まれただけで体のサイズは一切伝えていなかったはずなのにミスリールはシミリ好みの洋服や靴を選んできていた。
(私、サイズなんて言ってないし、多分今回の案件で体型自体が変わってしまっているはずよね。
この人、どうやって服や靴を選んでこれたのかしら?)
シミリは不思議に思いながらも出された洋服や靴を試着して鏡で自分を確認した。
(我ながら可愛い・・・と思う。
オルト君はこういう服は好きかな?感想を聞きたいな)
シミリがオルトに誉めちぎられて迫られる妄想に思い耽っていると、カーテンの隙間からニヤニヤと笑っているミスリールの顔があった。
「私のフルコーディネートは如何だったでしょうか?
今のお客様ならば落とせない殿方など居りませんよ。
気になる殿方がおられましたら是非その装いで迫られてみては如何でしょうか?」
ミスリールの強い押しに負けたシミリはオススメコーディネート一式をお買い上げさせられてしまったが本人は結構満足していた。
シミリは最後にひとつだけ気になる事をミスリールの居ないときに店員に聞いてみた。
「あの店長さんずいぶん若いみたいだけど
「皆さんよく聞かれますがそれを答えると店長の機嫌が悪くなるので勘弁してください。
ただおそらくお客様の倍以上は確実だと思ってもらって差し支えないと思います。
本日はお買い上げありがとうございました」
(私の倍以上・・・か。
美妖女店長ここにあり)
シミリは服以上にオルトに話すお土産を抱えながら宿へと帰路を急ぐのであった。
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