アンバー
春風月葉
アンバー
永遠なんてないのだと、絶望したのはいつだっただろうか。記憶も、身体も、愛さえも、時間と共に風化していく。時間の流れに抗えるわけもなく、私は薄れていく記憶も、枯れていく身体も、離れていく愛も、その悉くを見送った。もう、寂しさも忘れた。
忘れることも忘れられることも苦しくなって、私は他人と関わることを放棄した。逃げ出したのだ。
人に触れることを避けてから、私は永遠に憧れ、そして囚われるようになっていった。しかし、永遠が簡単に見つかるはずがなく、流れゆく時間の中で私は永遠への執着以外の全てを失ってしまった。それでも足を動かした。もはや惰性ではないかと思える行為だったが、その先に私は永遠を見つけた。
その日、私は燃えるような太陽に枯れ木の身体をジリジリと焼かれ、光から逃げるように路地の裏に隠れた。そこで私は怪しげな露店商と出会った。彼は人気のない路地には似つかわしくない見るからに高価そうな宝石を取り扱っていた。その中に紛れ込んだ一つの異質な石に私は興味を惹かれた。その太陽のように輝く石の中には小さな虫と落ち葉の一部が囚われていた。商人はその石を琥珀と呼んだ。木々の樹脂が固形化したその石は当時の時間を保管し、現在まで運ぶのだそうだ。
見つけた。私の口は無意識にそう呟いた。そうだ。きっと、この琥珀こそが自分の求めていたものだ。その時間を閉じ込め、永遠にする。なんと素晴らしいのだろう。
しかし、間の悪い寿命が私の下に訪れる。ようやく永遠に出会えたというのに。琥珀の表面に映るのは醜く老いた自分の姿。ああ、もっと早く貴方に閉じ込めて欲しかった。渇いた皮膚の上を涙が一筋流れた。
ついに永遠は訪れた。
アンバー 春風月葉 @HarukazeTsukiha
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