第6話 新たな接点作り

★前書き★


亜怜輝視点に戻ります。



* * * * *



 午前最後の授業が終わり、昼休みになる。俺は隣の席の優人に話しかけた。


「そういえば優人。今朝はちゃんと南と話せたのか?」


「ああ、凄く楽しかったよ! 本の話で盛り上がってさ。ほら、これ南さんが貸してくれたんだ!」


 そう言って優人は誇らしげに本を掲げて見せた。嬉しそうで何よりだ。協力した甲斐があるってもんだな。


「そりゃ良かったな。次に南と話す話題もちゃんと出来てんじゃねーか」


「そうなんだよ! これも全部亜怜輝のおかげだ。サンキュー!」


「ふっ、俺は大したことしてねーよ」


 実際、俺は優人と南が話す機会を作っただけだ。話を盛り上げ、本を貸してもらって次に話しかける大義名分まで作ったのは優人が頑張ったからに他ならない。


「謙遜することないって。やっぱ亜怜輝って、顔は怖いけどめちゃめちゃ優しいよな!」


「顔は怖いってのは余計だ馬鹿」


 俺は思わずぶっきらぼうにそう返事をした。もちろん褒められているのは分かっているし、嬉しいという気持ちはあったが、褒められ慣れていないせいかどう反応すればいいのか分からなかった。


「照れんなよ~。あ、そうだ! 亜怜輝、昼飯一緒に食おうぜ!」


 俺の反応を楽しそうに見ながら言う優人。ちっ、そんな風に見られると何か恥ずかしいじゃねーかよ。


 まあそれはそれとして。昼飯の誘いだが、優人には悪いが乗るわけにいかない。決して一緒に食べたくないとかじゃねーんだがな。


「誘ってもらってわりーが遠慮するよ」


「え~、何でだよ。俺の誘いは毎回断るくせに、結局いつも一人で飯食べてんじゃん!」


 そう、俺は毎日一人で昼飯を食べている。なので優人はおろか、誰かと昼飯を共にしたことは一度もない。一緒に食えるようなダチなんていないし、唯一のダチである優人は、赤田やクラスメートなど他のヤツらにいつも誘われているからだ。


 そこに俺が混ざろうものなら、とんでもなく気まずい雰囲気になるのは想像に難くない。大抵のヤツはビビり散らかしてしまい、食事どころではなくなるだろう。そんなことになったらそいつらに申し訳ないし、何より唯一のマブダチである優人に迷惑をかけたくない。


 それに俺は、優人と一緒にいるのをあまり他人に見られたくない。優人が俺と仲良いところを見て、万が一にも優人がヤクザやヤンキーと繋がりがあると思われ、避けられるようになってしまうことを恐れているからだ。


 こうして教室で話をするぐらいであれば、優人がハグレ者の俺に話しかけてやっていると捉えられるだろうが、一緒に昼飯を食べるとなれば話は別だ。変な疑いをもたれるかもしれない。


 という訳で、優人からの昼飯の誘いは断り続けている。ま、今となっては、赤田と優人が二人で飯を食べているときだけは、割って入って邪魔をするのも悪くないがな。


「オメーは俺以外にもダチがいんだろうが。そいつらと食えよ」


「亜怜輝と食いたいから誘ってるんだろ〜! 何だよ、そんなに俺と昼飯食うのが嫌なのかよ……」


「いや。そ、そういうわけじゃねーんだけどよ」


 口を尖らせながら拗ねるように言う優人。俺と食いたいなどと言ってくれるのは嬉しいが、ここまでストレートに言われると何だか変な気持ちになる。も、物好きなヤツだな。


「なあ亜怜輝。もしかしてだけどさ、俺たちに気を遣ってるのか?」


「……!」


 これまでと打って変わって神妙な面持ちで話す優人。急に核心を突かれて、俺は思わず面食らってしまった。


 だがここで、「実はそうなんだよ」などと言っても、逆に気を遣わせるだけだ。今は誤魔化しておくしかない。


「別に、気なんか遣ってねーよ。それじゃ、俺は行くところがあるんでな」


「おい! どこ行くんだよー!」


 これ以上突っ込まれないためにも、さっさとこの場を立ち去ってしまおう。そう考えた俺は優人に背を向け、じゃあな、と手をひらひらさせてから早々と教室を出た。



* * * * *



 昼食を食べ終え、俺はとある場所へと向かっていた。優人と南の新たな接点を作り出すためだ。


 優人は南から本を借りていた。ということは、今後も本の貸し借りなどのやりとりがあるだろう。


 これで南との会話の話題や、接する大義名分はできた。後は、誰にも邪魔されずに南と話ができる機会さえあればいいのだ。


 そしてその機会は、多ければ多いほど良い。機会が朝だけでは、まだ少なすぎる。しかも毎回朝早く登校していると、赤田のヤツに嗅ぎ付けられる可能性が高くなる。つまり新たな接点を作り出す必要があるのだ。


「お、あった。図書室ってここだったのか。初めて知ったな」


 『図書室』のプレートが上にある扉の前で立ち止まる。ここに来た理由はもちろん、本を読むためじゃない。南 茉莉花が図書委員だという情報を掴んだからだ。


 図書委員は図書室で本の貸し出しの受付をする仕事があるので、南が定期的にここにいるのは間違いない。受付の仕事は図書委員が日替わりで行っているらしいので、あとは南の当番がいつなのかを知ることができれば、それに合わせて優人を図書室に行かせることで、接点を作ることができるという算段だ。


 よって今日は南の当番の日を、受付をしている図書委員に聞き出すために図書室に来た。南本人が受付をしている可能性もあるが、その際は極力怪しまれないよう慎重に聞き出そう。いきなり「テメーの当番は、次いつなんだ」なんて言ったら、俺が南を狙っていると思われかねない。


 できれば南以外の人が受付していてくれ、と願いながら扉を開け、俺は学校生活初の図書室に足を踏み入れた。


 図書室の中は想像より狭く、入り口から全貌を見渡せるほどの広さだ。しかし図書室だけあって、いくつかある本棚には難しそうな本がぎっしりと詰まっている。


 入って右手の方には本を読むためのスペースがあった。長机が4つほどおいてあり、柔らかそうな椅子が一つの机に4つ並んでいる。しかし現在は、そこに一人も座っていない。というか見渡す限り、図書室を利用している人はいないようだった。


 とはいえ、図書室が閑散としているのは想像通りだ。今まで一度も来たことがないのであくまでイメージだが、ウチの学校の生徒で図書室を利用しているらしい人を見たことがないし、俺自身も図書室の存在を忘れかけていたので、利用者は少ないだろうと思っていた。だからこそ、誰にも邪魔をされずに南と話ができると考えたのだ。


 並んでいる本を見たところ、漫画やライトノベルなどの読みやすそうな本は無く、かろうじて少し文庫本がある程度で、後は古本や何かの資料が大半だ。これでは青春真っ只中のうら若き高校生があまり寄り付かないのも無理はない。


 さすがに図書委員ぐらいはいるだろうと受付のカウンターの方を覗くと、ちゃんと人がいて、そいつと目が合った。俺は思わず目を見開く。


「南 茉莉花……!」


 きっちりとフラグを回収するかのように、南 茉莉花本人が受付に立っていた。

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