第5話 一方その頃(優人視点)
★前書き★
今回のお話は、亜怜輝が瑞希の足止めをしている間に繰り広げられていた、優人と茉莉花の会話の様子を書いたものです。よって語り手は優人になっております。紛らわしいかと思いますがどうか、ご理解の上でお楽しみいただけると幸いです。
* * * * *
南さんと接するきっかけを作ってくれた亜怜輝に感謝し、意気揚々と教室に入る。すると早速、自席に座っていた南さんと目が合った。
こんな早い時間にクラスメートが来るのは珍しいのか、少し驚いている南さん。そんな表情も可愛らしい、と思えてしまう。
南さんと目が合ったまま、俺はしばらくの間視線を離せなかった。艶々の短い黒髪、透き通った双眸、滑らかで真っ白な柔肌。そのすべてが魅力的で、愛らしく見える。
って、見惚れてる場合じゃなかった! せっかく南さんと仲良くなれる機会を亜怜輝が作ってくれたんだ、積極的に話しかけにいかないと!
「お、おはよう南さん。もう来てたんだ?」
「えっと。原田くんこそ、今日は早いんですね」
普段あまり会話をしないからか、お互いに少しぎこちない。まあ俺は単に、好きな人を前にして緊張してるだけなんだけど。
ここまではほぼ亜怜輝のシミュレーション通り。ここからちゃんと話を広げないとだよな。
「何でこんな早く学校に来てるんだ?」
「私、登校するときは親に車で送ってもらっているんですよ。仕事場に行くついでに送ってもらってるので、家を出る時間も親の出勤時間に合わせて早めなんです」
「なるほど、そうだったんだ」
「はい」
「「……」」
会話終了。
ってこんなんじゃダメだろ! くそ、さっきから緊張して話す言葉が浮かんでこない!
でも仲良くなるにはもっと会話しないとだよな。どうしよう、何か話題は……!
「あの。原田くんはどうして、こんなに早い時間に登校してきたんですか?」
「え!?」
話題探しに頭を抱えていると、まさかの向こうから話を切り出してくれた。おお、自分から会話を繋げてくれるなんて、何ていい人なんだ南さん……!
でも待てよ。これってどう答えればいいんだ? まさかそのまま、南さんが早く来てるって友達から聞いて会いたくて~とか言えるはずもないし。ていうかそれ、ほとんど告白じゃん。
うーん、どう返事しよう。あんまり黙ってるのも変に思われるだろうし、この場は取り敢えず、自分のアドリブ力を信じて、適当に答えるしかない!
「た、たまたま今日、早起きしてさ。そんでたまたま、学校に早めに行きたいなーって思ったんだよ」
うん、ひどいな。俺のアドリブ力とやらは無に等しいみたいだ。今後は勢い任せに発言するのは控えよう。
「そうですか、たまたまだったんですね。てっきり何か用事があるのかと思いました」
なるほど納得、といったように頷く南さん。こんなとってつけたような理由を変だと思わず、真っ直ぐ受け取ってくれるなんて、純粋で優しい人なんだなあ。話せば話すほど魅力的な人だと思う。
しかしまずい。このままじゃ、話が下手な人だと思われるかもしれない。つまらない人だと見切られたらお終いだ。今度こそ、ちゃんと会話を続けるぞ!
「そういえば南さんは毎日、朝早くに学校来てるんだよね。ホームルームまで結構時間があると思うけど、その間普段は何してるの?」
「お友達が登校してくるまでは、読書をしていることが多いです。後は、課題を終らせたり、テスト前だと勉強をしたりしてますね」
「そうなんだ。朝から課題とか勉強に取り組めるなんて凄いね!」
「そ、そんなことないですよ。時間があるから、活用しているだけですので……」
褒められて少し恥ずかしかったのか、照れくさそうに話す南さん。純粋な上に照れ屋なところもあるなんて、可愛すぎる……!
南さんと話していると、魅力的なところばかり見つけてしまって、いちいち反応してしまうな。でも今は煩悩を振り払って、会話を繋げることに集中しないと。
「読書をするってことは本が好きなんだね。いつもどんな本を読んでるの?」
「あ、はい。わりといろんなジャンルの本を読みますね。最近は恋愛小説をよく読んでます」
「へえ~」
恋愛小説かあ。恋愛系の漫画ならたまに読むけど、小説の方はあまり読んだことないんだよな。今度、小説の方も読んでみようか。
「俺さ。小説に興味はあるんだけど、どういう本が良いのかよく分からなくて。難しそうな本も多いから、手が出せないでいるんだよな」
「それ、凄く分かります。小説は漫画と違ってほとんど文だけで構成されていますし、どうしても難しそうに見えて、読むまでのハードル高いですよね」
うんうん、と南さんの言葉に共感する。そうだ、南さんにおすすめの本を聞いてみよう! ちょうど小説を読むきっかけになるし、その本について南さんと語れるから、会話のネタにもなる。まさに一石二鳥だ!
「南さんさえ良かったら、おすすめの小説とかあれば教えてくれないかな? できれば、読みやすい本で!」
「おすすめ、ですか? それなら丁度、昨日読み終わったこの本がおすすめですよ」
そう言って南さんは、スクールバッグから一冊の本を取り出した。
「これはどういう本なの?」
「高校生の青春をテーマにした恋愛小説です。コメディ要素が多くて笑えるところもたくさんあるので、比較的読みやすい本だと思いますよ!」
本の話をしているときの南さんは、生き生きとしているように感じる。本当に本が好きなんだろうな。
「へー、面白そうだね! 教えてくれてありがとう、今度買って読んでみるよ!」
「ほんとですか! なら、私ので良ければお貸ししますよ?」
「え、いいのか!?」
「はい、全然構いませんよ。さっきも言った通り、もう読み終わっていますし」
「そっか、じゃあ借りさせてもらおうかな。ありがとう南さん!」
「いえいえ」
南さんがその本を差し出してくれたので、それを宝物預かるように大事に受け取る。まさか本を貸してもらえるなんて。これを機に交流することが増えるだろうし、願ってもない幸運だ。そしてその幸運が起こったのは、この機会を作ってくれた親友のおかげなのは間違いない。
本当にありがとう、亜怜輝。この恩はいつか、必ず返すよ。
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