第3話 作戦① 赤田 瑞希を引き止めろ!前編

 俺は赤田を呼び止め、近くにあった空き教室へ連れ込んだ。


「話って何よ。ていうか、わざわざこんな空き教室で話す必要あるの? 教室で良くない?」


 赤田はあからさまに警戒している様子で、こちらを睨みつけている。ほぼ面識のないに男子にいきなり空き教室に呼び出されたんだ。そりゃ警戒もするよな。


「まあそう言うなよ。教室じゃ話しにくいことなんだ」


「はあ? それってどういう......ってまさか!」


 ハッと何かに気が付いたような表情を浮かべる赤田。何だろう、悪い予感しかしない。


「あんた、私に告白する気!?」


 ......そう言われると思ったぜ。教室じゃ言いにくい話っつったし、勘違いするのも無理はない。


 ここはちゃんと、誤解を解いておこう。


「告白じゃねーよ。勘違いすんな」


「悪いけど、あんたと付き合うのは無理よ。私には心に決めた人がいるの」


「告白じゃねーって言ってんだろ話聞けや」


 俺がフラれたみたいになってるじゃねーか。ふざけんなよこのアマ。


「じゃあ何よ、教室じゃ言えないような話って」


「ああ、それなんだが......」


 さて、気を取り直して作戦を進めよう。ここで赤田を引き留めておくには、こいつが食いつくような話題を出さなければならない。


 だが今回は、絶対に赤田が食いつくであろう話題を考えてある。


「優人のことについてなんだがな」


「優人がどうかしたの?」


「どうやらあいつ、好きな人がいるらしいんだ」


 すまん優人。誰にも言わないという約束だったが、テメーのためでもあるんだ。今回は許してくれ。


「っ......!? どういうこと!? 相手は誰よ!?」


 俺のその一言を聞いた瞬間、赤田は物凄い剣幕で詰め寄ってきた。フッ、かかった。動揺しやがって。ちょろいヤツだ。


「まあ落ち着けよ。話は最後まで聞......」


「いいから教えなさい! 優人は誰が好きなの!?」


 俺の言葉を遮って、さっきと同じような質問を繰り返す赤田。やれやれ、思ったより頭に血が上ってるな。それだけ気になって仕方がないのだろう。


 だが当然、彼女に本当の事を教える訳にはいかない。赤田には悪いが、ここは嘘で誤魔化させてもらう。


「相手は俺にも分からん。好きな人がいるっていう話を聞いただけだ。誰にも言わないっていう約束でな」


「......! そう、なんだ」


 ほっとしたような、それでいて少し残念そうな表情をする赤田。


「ああ。幼馴染みの赤田なら、その相手を知っているかもしれないと思ったんだが......。その様子じゃ、好きな人がいたことすら知らなかったようだな」


「............」


 一変して、黙りこむ赤田。ま、『自分の好きな人が、誰かを好きになった』という話をされたのだから、いろいろ考えることもあるのだろう。


 神妙な面持ちでうつむく赤田。多少の罪悪感のようなものが沸かない訳でもないが、仕方のないことだ。


 やがて赤田は俯いていた顔をゆっくりと上げた。そして真剣な眼差しでこちらを見て、覚悟を決めたように口を開いた。


「その話、嘘じゃないのよね」


「当然だ。わざわざお前を空き教室まで呼び出しておいて、こんな嘘をつく理由がねーだろ」


「じゃあ私、直接優人に聞いてみる!」


「はあ!?」


 おいおいマジかこいつ。直接本人に聞くって、リスク高すぎるだろ。好きな人が自分じゃなかったらどうするつもりだ。


 ……実際、優人の好きな人は赤田ではないわけだし。


「私行くね。それじゃ!」


 驚いていたのも束の間、赤田はいてもたってもいられないといった様子で、空き教室を去ろうとしていた。くっ、どうやら本気で優人に聞きに行くつもりらしい......!


 もしこれを許してしまったら。最悪の場合優人は、赤田に南が好きなことをバラしちまうかもしれない。


 そうなれば、赤田が優人と南の邪魔をする可能性は十分にありえる。そんなの面倒くさいなんてレベルじゃねえ!


 とにかく、この展開は何としても避けなければ!


「おい、待て赤田!!」


 ここは強引に押さえつけてでも、赤田を止めてやる!

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