2-2 ショー
――世界に、光が生まれた。
女性の透き通った声によるナレーションと同時に、中央上空に一つの光が浮かび上がる。光は一色ではなく、様々な色に変化しながら私たちの周りを飛び回る。
――光は色となり、世界に命を与えた。
その瞬間。広場が輝き始めて地面からは草木が伸びていき、広場を包み込んでいた暗闇は青空となった。草木からはリスや小鳥といった小動物から、イノシシ、馬などといった動物が誕生していく。
――色は様々な色の光を生み出し、それらは世界にさらなる命を与えた。
真っ赤に燃える赤い光。水の様に流れる青い光。力強い茶色の光や、風の様にさらさらと流れる緑色の光。それらが私たちの周りを飛び回り、さらに周囲を色付けていく。炎が生まれ、土が出来て、水が流れる。風が水を流して、その水がさらなる命を誕生させる。全てが奇跡の様で、とっても綺麗だった。
――やがて光は力を失い、光は自身の魔力を次の世代に託した。
光は次々と私たちの中へと消えていく。
――光はそうして、私たち“魔法使い”を生み出しました。そして、力尽きた光たちは“精霊”となって、我々を見守っているのです。
ナレーションの声が消えると、周囲はゆっくりと暗くなっていった。
――時は流れ、私たちが平和に暮らしていた頃です。
周囲を包んでいた暗闇は夜空となって、徐々に首都ガーネストロを形作っていく。
――ある夜、平和を脅かすものが現れました。
ナレーションの声と同時に、噴水の前に赤いマントに黒いタキシードを着た女性が現れた。顔はフードを深く被っているようでよく見えなかった。女性は両腕を振り上げると、そのまま音楽団の指揮者の様に動かし始めた。首都は炎に包まれ、あちこちから悲鳴が上がる。
広場に居た全員がその光景に圧倒された時だった。虹色のマントを着て白い髭を生やした魔法使いが現れた。魔法使いは杖を振り上げると、空に力強く輝く光が放たれた。光が辺りを照らし始めると赤いマントを着た女性は苦しみだし、何処かへと飛んで逃げてしまった。
――そうです。彼こそが、私たちを見守って下さる存在。消えた精霊に代わる世界の守護者!
――“ガーネストロ・ミスコット”様なのです!
広場が一斉に沸き上がる。勿論、あそこに立っている魔法使いは本人ではないはず。それなのに、こんなに盛り上がるなんて……。
――あの魔女はこの地に呪いを残していきました。魔法を持たぬ化け物を生み出し、魔法使い達が次々と消滅していっています。
「あれは酷かった……次々と魔法使いが“何か”に飲み込まれて……跡形もなく消えちまうんだ」
「私の夫も冒険に出たまま行方が分からなくなって……」
「まるで静かな戦争だった……」
「あんな思いはもう二度としたくないわ……!」
広場の魔法使い達は各々の想いを漏らしていく。魔法使いが消滅するなんて……スライムやゴブリンとかの魔物でも聞いたことのない話。それに、飲み込まれるって……。
――皆さん、恐れる事はないのです。彼らは精霊となって私たちを見守って下さります。そして何よりも、私たちはガーネストロ・ミスコット様によって今も見守られてるのです!
広場はもう一度沸き上がる。たった一つのショーでこんなに盛り上がるなんて、少しおかしい。私はやっとこの場所に感じていた違和感の正体に気が付いた。ここはみんな優しいけれど、外での出来事を感じさせない。あの城でいくら大変な事が起きていても、ここには関係がない。
「こんなのって…………?」
私はふと噴水の方を見る。そこには噴水に近付こうとする小さな影があった。
「あれは……魔法使い?」
小さな魔法使いは噴水をよじ登り、何かを手に取った。あれは……広場を覆ってる舞台装置……魔道具?
小さな魔法使いは何かを呟いているみたい……っあ!
その瞬間、広場を覆っていたものは消え、小さな魔法使いは魔道具を持って逃げ始めた。
夢の欠片:.jp/shared
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