2-3 訳あり同士の出会い
「路地裏の子供だ! 誰かあいつを捕まえろ!」
広場の誰かがそう叫んだ。路地裏の子供?
ううん、考えてる暇はない。私が追わないと! 何だか、あの子を逃がしちゃいけない気がする! 誰よりも早く捕まえるの!
「私が追いかけます!」
「ちょ、お嬢さん!?」
お店の店主さんが言い終わる前に、私はあの子を追いかけ始めていた。子供は小さな帽子を被って、三つ編みの白髪。ボロボロの洋服を着ていて周りとは浮いてるから、すぐに見つけられるんだけど……他の魔法使いに紛れて見えなくなっちゃう……!
あの子は上手く魔法使いを抜けて沢山の家が立ち並ぶ路地に出てしまった。私も沢山の魔法使いを掻き分けながら急いであの子を追いかける。
「ちょっと、君! 待ちなさ~い!」
あの子は一瞬私の方へと振り向いた。見た感じ、女の子かな。女の子は一瞬だけ振り向くと、すぐに前を向いて走り始めた。と思ったら、いきなり道端の花壇を倒し始めた。私は咄嗟にお花と土、花壇の破片を避けて進んでいく。
次に女の子は走りながら後ろの私に手を向ける。その瞬間、突然風が巻き起こって周囲の水やお花とかを巻き込んでいく。そして巻き込んだ風の球を……私に投げてきた!
私は短い形状の杖を取り出して横に持ち、即座に簡単な結界を張って躱す。
「ちょ、ちょっと! 危ないよ!」
女の子は全く立ち止まらない。魔法使いと魔法使いの間を潜り抜けるように走って、その合間に物を倒して道を塞いでくる。だから近づいたと思ってもすぐに距離を空けられちゃう。
「ちょっとキリが無いかな……じゃあ……!」
――お母様が教えてくれた魔法、使っちゃおうかな!
私はその場で立ち止まってしゃがみ込む。そしてゆっくりと目を閉じて地面に手を置く。周りの声からして、もうだいぶ遠くに逃げちゃったみたい。でも大丈夫。落ち着いて、周りの音をかき消して自分に集中して……。
…………。
…………。
…………今!
『タイム』
その瞬間、周りの動きも音も次々と止まっていく。色は何となく全体的に青みがかかり、全ての“時間”が一時的に止まった。
「さて、それじゃあ追いかけますかね~どこまで行ったかな~」
私は止まった魔法使い達や飛び散る花壇の土を避けながら、ゆっくりと女の子の場所へと足を進める。急いでもいいのだけれど、この魔法自体ちょっと疲れちゃうから歩いていくのよね。のんびりと行きましょ~。
「あっ、居た!」
私はゆっくりと女の子の目の前まで歩いていって、立ち止まる。そして女の子の頭の上に手を置いて――。
「つ~かまえた!」
その瞬間、魔法は一瞬にして解除されて私は女の子を抱き上げた。女の子は一瞬の事で理解が追い付かないのか、辺りをキョロキョロと見渡していた。
「え、どうして……なんで!」
「ちょっとした魔法だよ。さ、お姉さんと一緒にちょっと話そうか?」
私がニコニコと微笑みながら話しかけると、女の子は観念したように私に身を任せてくれた。でも流石にここだと他の魔法使いに見られているし、かと言ってミスコット城の兵士に預けても良い事はなさそうだし……。
「よし、じゃあもう一回使おっか」
私はもう一度あの魔法を使って、他の場所に移動することにした。
「さて、それじゃあ何であんな事をしたのか話して貰おうか~」
「……お姉さん、何者ですか?」
「あぁ~えっと……魔法使い!」
「知ってるよ」
「じゃあ自己紹介は要らないね!」
「そうじゃなくて!」
「ん?」
私たちは町から少し離れた人目につかなそうな場所で、そんな会話をしていた。女の子は観念したみたいだけど、さっきから座り込んだまま中々話してくれない。私は何となく顔を覗いてみるけど……すぐに顔を背けられちゃった。
「お姉さん、ただの魔法使いじゃないですよね。何者?」
「んん~……君の事情を話してくれたら少し教えてあげる。だって君も」
――ただの魔法使いじゃないでしょ?
私がそう言うと、女の子は少し体をピクッと動かした。けど、まだ後ろを向いたまま。もうちょっと踏み込んでみようかな。
「私も君みたいな恰好とか色々された事とかあるから、何かちょっと分かっちゃうんだよね~」
「……ほんとに何者ですか?」
「訳ありの魔法使い!」
「知ってます」
「あぁ~…………」
また静かになっちゃった。やっぱり村の子とは違うし、ちょっと難しいな……。でも、もうちょっとだけ根気強く……。
「良いですよ、話してあげます」
女の子は突然諦めたように話し始めた。女の子は私の方へと振り返ってゆっくりと事情を説明し始めた。
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