2-4 定められた世界
お姉さん、この世界の魔法使い達は何かしら属性……“色”を一つ持っている事は知っていますよね。この世界の魔法使いは“色”を一つ持って、それを他の魔法使いと一緒に駆使しながら生活する。それがこの世界の決まりなんです。
勿論“色”にも強さがあって、強い魔法使いは冒険に出て王宮のクエストを達成したり、そのまま王宮直属の魔法使いになったりする。生まれた時から授かった“色”が、その魔法使いの人生を左右するんです。
――“色”が、人生を左右する……。
そう。私たちはそんな世界に生きてる。でも……この世界には唯一そんな決まりに従わない者達が存在する。それが“無”という存在です。知ってますか?
――“無”……。
そう“無”。“無”には色が存在しない。この世界で唯一“色”を持たない存在。色を持たないから、この世界で唯一魔法を使えない存在なんです。いや、“存在”って言えるのかな。とにかく“無”は色を持たない。そういう者達。
でも、この世界で生きるには“色”が絶対に必要なんです。“色”が無い者はこの世界から消えてしまう。だから、“無”はこの世界に存在出来ない。そんな“無”がこの世界に存在するための唯一の方法。それは“無”が持つ唯一の魔法――色の吸収。
他の魔法使いの“色”を吸収して“色”を手に入れ、その“色”を使って生活していく。それが“無”の存在がこの世界に存在するための唯一の方法。
――吸収された“色”はどうなるの?
…………。
…………。
――消滅する。
“無”に吸収された魔法使いは“色”を失い、そのまま消滅する。だから、無の存在は他の魔法使いを消滅させることでしか存在できないんです。
――そんな……。
「私は、そんな“無”の存在。魔法を持たず、この世界に歓迎されて生まれた訳ではない存在」
「それじゃあ……」
女の子は立ち上がる。立ち上がって、そのまま私の目をじっと見つめる。
「私だって、他の魔法使いを消滅させたい訳じゃない! 私だって、他の子供と一緒に遊んだり、魔法を使ったりしたい! でも、それは出来ない……それが――」
――この世界に定められた運命だから。
「定められた……運命……」
私の脳裏に、“あの時”の記憶が蘇る。
あれは、私たちが湖を渡ってある村に辿り着き、そこでしばらく生活していた頃の事だった。私たちは時計屋さんを開いて、いろんな時計を売っていた。村の中では有名な時計屋さんだった。綺麗な看板娘と、綺麗な店主、綺麗に装飾された時計。村では本当に有名だった。
けど、そんな平和な日常は突如として消え去った。“彼ら”が来たその瞬間から。
あの青髪の男と王宮直属の魔法使いが、私たちの時計屋さんにやって来た。青髪の男はニコニコと不気味な笑顔を浮かべながら、私のお母様に近寄る。
「ミランダ・シルクメット。もう逃げ惑うのはお終いだ。君だって、大事なその子を守りたいはずだ。我々に協力すれば、君達の未来は保障される。この世界のどんな脅威からも守られるんだ」
「お母様……」
「ほら、ミランダ。我々と協力しよう。我々“原始魔法”の使い手達は、共に協力する運命なんだ。全ては、定められた運命だ――」
お母様は私をゆっくりとお母様の後ろに移動させる。同時に、お母様の手にゆっくりと力が込められていく。
「この世界に定められたものなんてない……自分が何をしたいのか、自分が何者なのかは自分で決める! それが、本当の“色”の使い手よ!」
その瞬間、お母様は時計の装飾がされた杖を出現させた。
「私は……消えたくない! 私は、生きたいんだ! 生きなきゃいけないんだ! あの子の為にも……!」
私の意識は女の子のその声で引き戻された。そしてよく見ると、女の子は盗んだ魔道具に魔法を使おうとしていた。まさかこの子、他の魔法使いを消滅させたくないからって……!
「この魔道具の魔法を吸収すれば……!」
女の子が魔道具に歪んだ空間を出現させたその時だった。
女の子の中から様々な色が入り混じる靄のようなものが現れた。
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