三章 ―向き合う過去―

3-1 ガーネストロ・ミスコット

「報告は以上となります」


 青髪の男――エリオットはミスコット城の玉座の間にて膝を突き、玉座に座る老人に報告をしていた。老人は煙草を吸い、一つ大きな煙を吐く。


「つまり捕まえた原始魔法の使い手には逃げられ、“無”の使い手が今も城のどこかで嗅ぎまわっていると?」


「……はい」


 沈黙が続く。重たい沈黙の中、エリオットは汗を一滴流す。エリオットの流した汗が地面に落ちるよりも先に、老人は動き出した。老人は様々な色がツタの様に絡み合う杖を取り出すと、杖先から靄を出現させエリオットに飛ばした。靄はエリオットに絡みつき、エリオットを縛り付ける。


「あ……! うぅ……!」


「分かっているな? お前にはチャンスを与えているのだ。まさか、この私を失望させるなんて事はあるまい」


「ご……もっとも……です……ぐぅぁ……!」


 老人のゆっくりとした威圧的な声に答えるのは、エリオットの震えるような小さな声。


「聞こえんぞ、エリオット。私を失望させぬようもう一度言ってみろ」


「か……必ずや……! 彼女らを……捕らえます! ガーネストロ……ミスコット……様……!」


 その瞬間、靄はエリオットを解放しそのままガーネストロの杖先に戻っていった。


「魔法が解かれつつある。“再創造”の為にも急ぐのだ、エリオット」


「は……!」


 その時、大きな音と共に王室の扉が開かれた。現れたのは、王宮の一般兵。


「失礼します、ガーネストロ様、エリオット様。現在、あの逃げ出した原始魔法の使い手が攻め込んできている模様です」


「兵を出しなさい」


「それが……思った以上に苦戦しているようで……」


 一般兵がその言葉を発した後、ガーネストロは一般兵に密度の高い魔力球を撃ち込んだ。直撃した一般兵はそのまま命を落とし、肉体は光の粒子となって空へと消えていった。


「おおっといけない。手が滑ってしまったようだ、エリオット。あの一般兵の為にも、私たちは何としてでも“再創造”を成功させなければならない。分かっているな?」


「……は!」


「では行けエリオット。次は良い報告を期待しているぞ?」

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