0-3 新しい日々
「っは……!」
私は柔らかいベッドの上で勢いよく目覚めた。汗はびっしょりで、寝間着もべちゃべちゃで気持ち悪かった。私はとりあえずベッドの縁に座って上を向く。
「また、あの時の夢か……もう、20年も前なんだよね……」
「セシリア! いつまで寝ているんだい! 早く起きて手伝いに来ておくれ!」
いけない。もうそんな時間だったのね。私はさっさといつもの服に着替える。胸元の開けた茶色のドレスに白いエプロン。滑らかで長い黒髪を赤いバンダナでポニーテイルに結んで、いつもの私の完成。
鏡を見て、キリっとした表情とニコッとした表情。ムスッとした表情も作って顔面体操も終了。さっ、早く行かなくちゃ!
「セシリア! まだなのかい!?」
「は~い! 今行きま~す!」
私は急いで階段を駆け下りる。階段の下には勿論、ムスッとした表情で大きな体格のおば様が立っていた。
「アンタ、いつまで眠ってるんだい」
「ごめんなさいおば様! でも後でね、今はお客さんの準備をしなくちゃ!」
私はバタバタとおば様の横を通り過ぎてテーブルクロスや花瓶、魔法の蠟燭なんかを準備する。っあ、魔法の蝋燭は取扱注意ね。おば様の繊細な魔法とおじ様の魔法を組み合わせて作った物だから。これがとっても綺麗なのよ。色がゆっくりと変化して気分を変えてくれるの。
この魔法の蝋燭と花瓶をセットでテーブルの上に置けば、これでお客さんを迎え入れる準備は完了。これを6席くらい行えば完璧かな。
「おぉ、セシリア。いい所に……ちょっとおいで」
しわがれた優しい声でおじ様が厨房から私を呼びかける。
「は~い! どうしたの、おじ様?」
「ちょっとセシリア! まだ準備は終わってないよ!」
「うん! ちゃんとそっちも手伝うから! それで、おじ様はどうしたの?」
私はおじ様の顔を覗き込む。するとおじ様はニコリと笑って私に冷蔵庫に取り付けてある制御盤を見せた。
「上手く婆さんのパンを発酵させられなくてのぅ……何が原因じゃろうか」
「う~ん」と私は制御盤と睨めっこを始める。すると、ある異変に気がついた。
「おじ様これ、埃が溜まっちゃってるよ。掃除しないと……おじ様、一度電源を落としてくれるかな?」
おじ様が電源を落とした事を確認すると、私は急いでそして丁寧に埃を取り除いた。そしておじ様が電源を入れると、いつも通りに冷蔵庫は動き出した。
「おぉ~流石じゃのぉ、セシリア」
「えへへ」
「セシリア、まだかい! もうすぐでお客さんが来ちまうよ!」
「は~い」
これが、私の一日。今の、新しい日々。私はパン屋の看板娘として、この人達に育ててもらっている。最近はパンの他にもピザもやっているのよ。よくピザの生地を回しているのをお客さんに見せると、お客さんは「器用だねぇ~」って喜んでくれる。まぁ、おば様にそのあと怒られちゃうんだけど……。
他にも、ここのパンは短い時間で美味しいものが作れるって村では有名なのよ。本来は発酵とかにも時間が掛かるけど、このお店では殆ど時間が掛からないの。何たって、私とおじ様の傑作だからね。パンの焼き加減はおば様の得意魔法。
のどかで何もないけど、これが今の私の毎日。
だから、今日も張り切ってお店のドアを開く。
「いらっしゃいませー!」
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