0-2 逃走

「はぁはぁはぁはぁ……」


「走って……! 走るのよ、セシリア!」


 私は走り続けた。真っ暗な森の中を、ただ独り走り続けた。幼い私の身長より高い草木を掻き分け、転び、躓き、傷つきながら走り続けた。


『決して振り返ってはだめよ!』


 お母様のその言葉を守り、私は走り続けた。悲鳴が聞こえないように、何も考えないように、私は自分の手で耳を覆った。


 どれほど走り続けたのだろうか。私は疲れてしまった。ふと、来た道を振り返ってしまった。そこに、お母様もついてきているかもしれない。そんな淡い期待も胸にして。


 けれどそこには。


 一生忘れられない光景が広がっていた。


 そこには――。


 







 ――鮮やかな炎に包まれた私の故郷があった。

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