―Cecilia―
柄針
本編 ―Cecilia―
序章 ―魔法を持たぬ子―
0-1 始まり
何も存在しない“無”の中に、一つの“光”が生まれた。ただの、光。
その光に釣られ、新たな光が無の中に誕生した。しかし、二つの光は同じ輝きを放っており、お互いの存在を区別することが出来なかった。
初めに生まれた光は、互いを区別するために“色”を持った。そしてもう一つの光は、区別されて成長するために“時”を持った。
色と時。やがて魔法と呼ばれる二つの光が生まれたことにより、無は色付き、時が流れ、世界が生まれた。
未だ無から生み出される光には、多くの色がつけられた。赤い光、緑の光、青の光。複数の色が合わさる事で生まれる光も存在した。そして、それらの光は“時”が存在することにより、成長し、力を得て、繁栄していった。
やがて、光からは魔法使いが生まれ、役目を終えた光は精霊となり自身の光の種族と、世界そのものを見守って眠りについた。
これは今から遥か昔の物語。おとぎ話と称される時代の物語。
その世界に人間は存在しなかった。存在するのは人間以外の様々な生命。木々などの植物、昆虫、牛や鳥などの生き物……そして、魔法使いである。彼らは古の精霊たちが作りし世界で、力を合わせながら生活していた。
やがて、世界を治める者達が現れた。彼らは各々の地域を治めていたが、中でも世界そのものを治める者が現れた。その名はミスコット。
彼はその強大な力と寛大さで世界を包み込み、我が物とした。
そんな彼はミスコット城という大きな城を建て、その周りに町を建設し名を首都ガーネストロとした。そして首都ガーネストロの周辺には村や町が点々と建てられ、世界の繁栄は一度動きを止めた。
そんなある日。
空から一つの“黒い何か”が降り注いだ。
何かは徐々にその姿を整えていく。
綺麗で細長い足に滑らかな曲線を描くくびれ。鋭い目つきにふっくらとした唇。肩まで伸び、カーブを描く黒髪。黒いタキシードに赤いマントを羽織り、真っ黒なハイヒールを履いた女性。
何かはそんな女性に姿を変えた。
女性は何処かへと向かって歩き出す。
そんな女性の足元から溢れる闇。
闇は広がり“何者でもない者”を生み出す。
そう、この物語はここから始まる。
それは現実でも異世界でもない“夢”のような物語。
彼女らの物語。
そして時は数年後まで進む――。
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