第22話
「おらっ!!」
相手にへばりつくように強引に剣を振るう。
ゴブリンメイジはどさくさに紛れてシャーマンへとフォーカスを合わせられないようにする為なのか、押されながらも、どんどんとリリーとシャーマン達から離されていく。
だが、こちらとしてもそう動かれた方が都合がいい。
リリーは得物が飛び道具であるために抵抗の余地があるが、俺は魔法で一気に狙い撃ちにされた場合には対処法が避けるしかないのだ。
メイジが使用する魔法の中には対近距離用の魔法というのも存在するが、それでも基本的に魔法の一番得意なレンジは遠距離である事には変わりがない。
隙の小さい攻撃魔法はその分やはり威力も小さく、その程度の被ダメージは無視して強引に刀を振るい続ける。
ゴブリンメイジはどうやら多少は近距離戦闘の心得があるようで、ステッキを振るって物理で対抗してくる事がそう珍しくはなかった。しかし、不幸にもその付け焼刃のせいで俺の得意分野で戦わされ続けている事に気付けていない辺り、所詮はゴブリンといったところだ。
「隙あり!」
メイジが欲張ったのか、やや大きくステッキを振り上げたところに小さく突きを放つ。
その切っ先はメイジの右腕を貫き、そのまま肉を裂くように力任せに刃を上へと振り上げる。
痛みに耐えきれなかったのか、思わずメイジが手にしていた金属製のステッキがその手を離れる。
「こいつで決まりだ!」
咄嗟に防御魔法を唱えようとしたようだが、それ以上に早く俺の刃がメイジの肩をとらえ、腰へとかけて深く切り裂く。
それを皮切りに何度も刃を振るい、確実にメイジへと斬撃を浴びせる。
「っし……こっちは片付いたか」
メイジが光となりつつ倒れるのを確認し、リリーの方へと踵を返した。
「さて……と、タイマンか」
私は銃口をシャーマンへと向け、引き金を引く。
相手の放つ魔法は全て避け、そのお礼に敵へと向かって鉛弾を返す。
「こんなアニメみたいな撃ち合いが基本になるなんて……な」
普通はこんなにも体をさらして撃っていれば、すぐに敵に撃ち抜かれてお陀仏だろう。
しかし、この世界では体を隠して被弾を失くしたところで大したメリットがない。多少被弾をしたところで大したダメージもないとなれば、逆に体をさらして相手に弾を当てる機会を増やした方が得策だ。
間合いを詰めながら発砲し、格闘戦の間合いへと入る。
思わず間合いを取ろうとするシャーマンへと回し蹴りをお見舞いする。
「チェックメイトだ」
背中を踏みつけ、何度も引き金を引く。
「よし……ん?」
奥の方に開いた小さな穴、そこから覗く小さな顔を私は見逃さなかった。
すぐに引っ込んだが、耳を澄ませてみると微かに話す声が聞こえる上に、いつの間にか気配察知も使えるようになっていたおかげで、穴の中に5匹の子供のゴブリンがいる事が分かった。
「子供のゴブリン……か」
嫌な記憶が思い出される。私がこの世界に来るきっかけとなった出来事。
「アマテラス、ここってやっぱ地獄なんじゃねえかって思うんだよな」
「美少女らしからぬ言葉遣いですね。エルさんにバレちゃいますよ? それに、少なくともここは地獄ではありませんし、貴方のあの行動はある意味では罪であるのは事実です。しかし、同時に英雄的判断とも言えるのですよ」
「んま、よーするに受け取り方次第だったってわけだ。それからエルには何か隠してるけど、別にバレてもそれほど問題じゃないとは思ってるぜ」
私、いや俺の前世は男だ。
倫理問題でよく出る、戦場での敵国の孤児の問題。それが俺の死因だ。
結論から言うと俺は子供を撃った。全く躊躇わなかったわけではなかったが、最終的に引き金を引いてしまったという結果は変わらない。
ただ、俺はその行動が間違っていたのかと問われれば、少なくともその場面においては間違いではなかっただろうと思う。
――結果的に、情に厚いヤツに背中を撃たれてしまった上に、そいつも仲間によって殺されてしまったという意味では最悪だったが。
ここで情をかけて逃がせば、人間に憎しみを持ったゴブリンが生まれる事になるだろう。
主人公補正とかいうスキルは持っているが、あくまでその読み方はプレイヤー。例えこの行動でこの便利スキルが消えてしまうとしても構わない。物語のような壮大なゴブリンの復讐譚が始まるきっかけなど、種の段階で消してしまうのがベストだ。
「穴倉ってなると……こいつが一番か」
私は手に手榴弾を握り締める。アイテムのように見えるが、これは私の使える攻撃魔法だ。
敵味方を問わずダメージを与える魔法である為にエルといる時に使った事は無いが、敵味方を問わないというデメリットのおかげか、非常に高い範囲ダメージを出せるものだ。
「出来れば一発で全部仕留めたいが……もし逃げたら敵の位置報告頼めるか?」
「ん、任せてください」
穴へと向かって手榴弾を転がす。
しばらくの静寂の後、坑道が揺れるような爆発が小さな穴の中で起こる。
「1匹……タフな子がいたか」
4つの気配はすぐに消え去ったが、1だけ消えずに残っている気配がある。
穴を睨みつけていると、ゴブリンの子供が這いずりながら穴から姿を見せた。
「苦しませちゃったな……すぐ楽にさせてやる」
彼へと銃口を向け、数度引き金を引く。
放たれた弾丸は真っ直ぐと彼へと向かって飛翔し、力なく倒れながら彼を光へと変えてゆく。
「リリー……」
「エル、そっちも終わったんだね」
茫然と立ち尽くすエルの姿が私の目に入った。
ゲームのような新世界~王道の通り冒険者で食っていこう~ てんねんはまち @tennenhamachi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ゲームのような新世界~王道の通り冒険者で食っていこう~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます