第21話

「見つけたっ!」


 先を行くリリーの声と共に素早く銃声が鳴り響く。

 すぐにゴブリンの姿とリリーの姿を見ることが出来たのだが、どうやらこれまでとは違ってリリーはゴブリンを仕留められずにいるようだ。


「手こずってんな!」

「コイツ防御魔法使っててね! 結構撃ち込まないと殺せなさそうっ!」


 そのゴブリンは肌や身長は他のゴブリンと同じようなものではあるものの、先端が膨らんだ木の杖を持っており、首からは宝石のはめられたペンダントを下げ、いかにもなマントを羽織っている。ゴブリンシャーマンで間違いないだろう。

 ちなみにだがゴブリンメイジとの差は殆どない。手にしている得物が木製か金属製かの違いくらいだ。


 リリーの攻撃はゴブリンに当たっているようなのだが、ゴブリンはそれを意に介せずに魔法をリリーへと飛ばす。

 リリーは飛んできた光の矢をステップを踏んで避け、お返しにと弾丸を飛ばすが、ゴブリンも全く回避するつもりがないわけではなかったのか、同じようにステップを踏んで回避する。


「はぁっ!」


 リリーの横を抜けて一気に間合いを詰め、そのまま刀を振るう。

 刃はゴブリンを捉え、斬ったという手ごたえはあったものの、ゴブリンではない何かを斬ったような感覚がした。

 恐らくこれが防御魔法なのだろう。


「うおっ!?」


 ゴブリンの杖が光ったと思えば、俺は吹っ飛ばされていた。

 どうにか受け身を取るが、そこに向かって光の矢が置かれるように飛んでくるのが目に入った。


「エル!!」


 普通ならもう回避は間に合わない。どうあがいてもまともに当たってしまう完璧な攻撃。

 しかし、俺は反射的にその魔法へと突っ込むようにして地面を強く蹴った。


 その瞬間、俺の視界がブレたかと思えば、俺のすぐ後ろで地面が爆発したかのように少し抉れているのが見えた。


「これ……クッソ強いな!?」


 思わず胸のペンダントに目をやる。

 ちょっとしたバフ魔法よりも消費されたMPは少なく、カスりダメージも食らっていない。まさにゲームに存在するフレーム回避のそれだ。


「なっ……今何を……」


 初めて発動させたペンダントの効果にリリーが思わず棒立ちしてしまっているが、ゴブリンも面食らったのか同じように一瞬上の空になっている。


「貰い!」


 その隙を見逃さずに間合いを詰め直し、ゴブリンへと袈裟斬りを放つ。


「っとと、私も援護しちゃうよ!」


 流石に大振りすぎたかゴブリンに回避を許してしまったが、その代わりにリリーの放った弾丸がゴブリンへと命中する。


 ゴブリンは短い悲鳴をあげ、おもむろに何かを手に握りしめた。


「何を――!?」


 ゴブリンはすぐにそれを自分の足元へと投げつけると、すぐに視界が塞がれ、ゴブリンが遠くへと走って行くような足音が耳に入った。


「煙幕だよ! せめてワープ系の魔法とかで逃げて欲しかったところだけど!」

「クッソ……変にリアリティある道具使いやがって!」


 すぐに追いかけようとしたが彼の姿はもう見えなくなっており、足音で追おうにも微かに聞こえる足音は壁による反響のせいか、それを頼りに探し出すのは難しそうだ。


 すぐにでも追いかけようかと足を踏み出したが、リリーは何かを考え込むかのようにしてその場から動こうとはしない。


「リリー、追わないのか?」

「追うよ、ただ相手が逃げそうな場所がどこかなって思ってさ。まあ狭いところには逃げないだろうし……よし!」


 リリーは自信ありげに駆け出す。


「エル! 相手がイメージ通りの魔法使い系の魔物なら下手に回避とかせずに突っ込むよ!」

「んな……大丈夫なのか?」

「かけられるだけの防御魔法は使うつもりだからね。遠距離勢からしたら一気に詰められるほどイヤな事もないでしょ?」

「確かにな……自由に動くって事でいいか?」

「オーケー!」


 進路から推察するにリリーが向かう先は広場のようになっている場所だ。

 普通であれば広場に入る前に立ち止まって様子を見るところだろうが、俺達は躊躇う事なく広場へと向かって飛び出した。


 広場には先ほどのシャーマンともう1匹のゴブリンが待ち構えており、彼らがニヤりとほくそ笑んだように見えた。


「うおっ!?」


 すぐ後ろでまるで地雷のように地面が爆発したが、速度を落とす事なく突っ込んだ俺達がその爆発でダメージを受ける事はなかった。

 ゴブリン達もまさか当たらないとは思っていなかったのか、一瞬動揺したのが見える。


「ははっ! もうちょっとちゃんとしたワナを置いておけばよかったのに!」


 高らかなリリーの声と銃声が響き渡る。


「エル! カバー!」

「おう!」


 ゴブリンシャーマンとの間に割って入ったその時、ふと違和感を覚えた。

 その違和感の正体にはすぐに気づくことが出来た。


 もう1匹のゴブリンの得物が金属製のステッキを持っている。つまり、ここにいるのはシャーマンとメイジという事だ。


「リリー、そいつは任せた!」


 リリーと距離を離すようにゴブリンへと刀を振るった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る