第20話

 岩盤がむき出しの洞窟を奥へと向かって歩いてみると、不意に自分の場所がどこなのか分かるようになった。

 どうやらここは坑道に繋がっていたようで、落盤防止の為の支柱が至る所に設置されるようになっている。


「明かりくらいちゃんと置いておいてほしいんだけどなあ」

「仕方ないさ、多分シャーマンが何かしてるんだろうよ」


 普通のゴブリンは暗視が使えるような魔物ではなかったはずだが、リリーが地下で襲われたゴブリン達は明らかに見えている動きをしていた。となれば、彼らが暗視の魔法を使えるか、魔法を使えるゴブリンが何かしらの魔法を使って彼らも暗視が出来るようになっていた。と考えるのが普通だろう。


「あいつらの暗視が俺らの暗視と一緒なら、射手は戦力にならないはず。リリーみたいな拳銃持ちがいたら別だけどな」

「エルなら弾けるでしょ? 期待してるからね」

「その前にリリーが撃ち抜いてくれた方が楽だけどな」


 耳を澄ませてみると奥の方からゴブリン達の声が聞こえてくる。

 リリーは片手にナイフ、片手にピストルと近中距離において隙のない装備をしており、俺は刀を抜いたまま坑道を奥へと進んでいく。


「折角ライフル買ったのにこれは今回出番なしかなあ」

「仕方ないさ、パーティーの人数がもうちょっと多ければ入り口を張ってもらうってのも手だったと思うけど」

「それはそれでヒマじゃん? 出来る事ならアサルトライフルでも持ちたいんだけどなあ」

「流石にそのレベルの武器は無いんじゃないか?」


 高額な銃でも流石にマシンガンのように乱射出来そうなものは見当たらなかった。銃と言えば非常に現代的な聞こえ方はするものの、長物で連射力の高いものとなるとボルトアクションか散弾銃に見られるようなポンプアクション、そしてレバーアクションのものくらいしか見たことが無い。

 拳銃も加えるならば、今リリーが装備しているオートマチックのものが群を抜いて優秀なものだ。


「エルは使ってみた? 銃」

「多少はな、でもこっちの方が強いなって」

「やっぱりそうなるよね。精度はすごくいいんだけど、如何せん弱点っぽいところをしっかり当てないとダメージを感じないしねっ……と」


 不意に勢いよくリリーがナイフを振るう。

 丁度曲がり角から顔を覗かせたゴブリンへとその刃は命中したが、一撃で仕留めるとはいかなかったようでゴブリンが体勢を立て直そうとする。

 間髪入れずに鳴り響く銃声。ゴブリンの頭が何かに弾かれたかのように後ろへとのけぞったかと思えば、彼は光となって消えてゆく。


「ま、当たれば楽しいよ。狙い通りピッチリ当たるしね」


 どうやらグループで行動していたようで、奥から現れた2匹のゴブリンがリリーへと武器を振りかぶる。


 片方のゴブリンの武器を持つ手が銃声と共に後ろへと跳ね返り、もう片方のゴブリンの攻撃をリリーは体を半分ほど捻って躱したかと思えば、喉元へとナイフを突き刺してそのまま体を回転させて掻き切った。

 回転の勢いをそのままに、光となって消えゆくゴブリンへと肘鉄を当て、もう片方のゴブリンへとぶつけたかと思えば、もつれるように倒れたゴブリンへと向かって引き金を引いた。


「容赦ねえな……」

「片手でも十分当たるね、近接戦はこのスタイルか2丁拳銃が良さそうかな?」


 弾倉を交換し、堂々と坑道を進みながら彼女はそう口にする。


 彼女の言う通り銃の威力は思っていたよりは低い。しかし、連射力と着弾の速さから狙ったところを攻撃し続けられるという強みがある。

 もしもここが外の明るい場所であれば、ゴブリン達は彼女を先に見つけて逃げられたかもしれない。しかし、ここのゴブリン達は遠くまで見通せるほどの暗視を持っているわけではないらしく、逃げようと思った頃には既にリリーの射程内に入ってしまっている。


「こいつらの言葉が分かればボスの居場所を吐かせるんだけどね。根城を荒らされて怒って出てきてくれたらそれが一番なんだけど」

「それが出来たら苦労はしない……っぶねえ!」


 暗闇の奥から勢いよく光の矢のようなものが飛んできた。

 咄嗟に屈んで避けたが、その矢は後ろの壁へと当たると爆発し、爆風によって少しダメージを受けてしまった。


「苦労しないっていいねえ! 向こうは見えてるかもしれないし詰めちゃうよ!」

「ったく! 出てくるなら出てくるって言ってくれ!」


 リリーはダメージを受けなかったのか、すぐに奥へと向かって駆けだした。

 俺もそれに続くようにして走りつつ、ポーションを体へとぶっかけた。

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