第19話

「とにかく音に一番気を付けて、余裕があるなら罠がないか周りをしっかり見るのも大事だけど」


 1階へと降り、耳を澄ませてみるが特に何か音が聞こえるという事は無い。

 ここも部屋の数はそれほど多くはなく、1階部分の殆どは食堂と厨房が占めているようだ。

 汚れたソファや、足が折れたベッドが複数放置されている休憩部屋のような部屋。資料室だったのか、ボロボロになった本の散らばる部屋があるようだ。


「使えそうな情報は……特に無さそうかな?」

「どうだろうな……お?」


 部屋の隅に丸められたポスターのようなものを見つけた。

 広げてみるとどうやら坑道の地図のようで、状態は悪いものの、どうにか読めるようなものであった。

 興味津々と言った様子でリリーが俺に乗っかるようにして覗き込み、俺の耳元でふんふんと鼻が鳴っているのがよく分かる。


「こいつは使えそうだな。つっても頭の中に叩き込む形になりそうだけど」

「持ってはいけそうだけど、戦闘中に取り出したらバラバラになっちゃいそうだしね」


 中はかなり入り組んでいるようで、通路が奥で合流していたり行き止まりになっていたりと、地図無しで探索するにはかなり骨が折れそうに見える。


「アマテラス、便利スキルでこう……何とかならない?」

「多分もう感覚で分かると思いますよ。この世界に来た時に周辺の地理が分かったように」

「って事はあんまり真剣に覚える必要は無さそうかな?」

「一応ポーチにしまっておくか、気配察知みたいに封じられてるかもしれないし」


 地図を折りたたんでポーチへとしまう。


「それにしてもやっぱり不思議だよねえ、中には他にも色々入ってるんでしょ?」

「まあな、まあそういう世界なんだし納得するしかないさ」


 今ポーチの中に入っているものは明らかにポーチに入りきらないだけの量が入っている。

 中を覗いてみても先ほどしまった地図は無いが、手を突っ込んでみればそこにあるという事は理解できる不思議なものだ。


「それじゃ、地下の方に行こっか。多分そっちには何かいると思うけど」

「リリー、また先頭を任せても?」

「いいよ。慣れてる私が先の方がいいだろうしね」


 リリーが地下へと続く階段へと足を乗せたその時だ。


 バキィ――ッ!!


「んなっ!?」


 リリーの体重を支え切れなかったのか、階段は大きな音を立てて崩壊する。


「リリー!」

「こっちは大丈夫だけど――!」


 リリーの声に続いて銃声が鳴り響く。


「くっそ……今行く!」


 地下は真っ暗でよく見えないが、落ちたリリーが大丈夫なら飛び降りても問題はないだろう。

 暗視の魔法を行使しつつ、腰に下げた刀を抜いて下へと向かって飛び降りる。


 暗視とは言っても最新のナイトビジョンゴーグルのようにハッキリと見えるわけではなく、周囲5メートルほどがぼんやりと見えるようになるだけだ。


「おらっ!」


 着地しながら刃をゴブリンへと突き立て、彼を押しつぶすようにして着地する。


「派手な事するなあ!」

「もう潜む必要もないだろ?」


 リリーの手にはナイフではなくピストルが握られており、声ももう潜めてはいない。


「まあそうだね、プランBに変更ってところかな」

「しっかし……これじゃ戻れそうにないな」

「それよりもさ、あそこ」


 崩れ落ちた階段を背にリリーが指をさした先には、倉庫になっていたであろう空間が広がっていた。

 ツルハシや石を運び出す為の一輪車、ランタンといったいかにも坑道にありそうなものが雑に置かれているようだ。

 しかし奥の壁に大きな穴が開いており、その先には真っ暗な洞窟が続いているのが見える。


「こいつら、あそこから出てきたんだよね。いきなりアタリ引いちゃったかもよ?」

「どうだろうな、ゲーム的に考えたらコレがゴールなら地図を置いておく必要もなかっただろうし」

「それもそっか、とりあえず入ってみようよ。他に行けそうなところもないしさ」


 リリーは弾倉を交換しながらそそくさと洞窟の方へと足を進める。


「あんまし焦り過ぎんなよ?」


 感覚でリリーの場所が分かる事には分かるが、あまり離れてしまうと見えなくなってしまう。

 俺は洞窟へと進むリリーの後へと続いた。

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