第15話

「っぶねえ!」

「大丈夫大丈夫、誤射はしないから!」


 リリーは俺の方へと銃口を向けて躊躇う事なく発砲した。

 俺の後ろからゴブリンの短い悲鳴があがり、光となって消えてゆく。


「まあ今の状態ならもし当たってもダメージは無いんだけどね」

「そうだとしても心臓に悪――ッ!?」


 アテナのその言葉に反応するかのように、明らかにわざと俺を狙ってリリーが発砲するのが見えた。

 咄嗟に刀を振るい、放たれた弾丸を弾き飛ばす。


「弾けるものなの……?」

「弾けた事にもビックリだけどな、マジで撃つお前にビックリだよ!」

「はは、ごめんごめん」


 困惑したかと思えばケラケラと笑うリリー、思わず苦笑いしてしまうが、彼女の頭のネジは何本かどこかに落としてきていると思っていいだろう。


「ふう、戦闘終了っと」


 何食わぬ顔で弾倉をチェックするリリーに軽く詰め寄る。


「あのなあ……いきなりフレンドリーファイアがあるか確かめるヤツがあるか?」

「いいじゃん、どうせ向こうの世界と違って1発の弾丸で死ぬことなんてないだろうしさ」

「まあそうでもな、こう……万が一って思うだろ?」

「そう?」


 キョトンとした表情を浮かべながらリリーは銃をいじる。


「はあ……ま、一応試してみておいた方がいいだろうな。これで大丈夫だったら気にしなくていいって思えるわけだし」

「どこ撃ってほしい? 左腕?」

「ま、利き腕でもないしな……」

「オッケー!」


 リリーが素早く銃を片手で俺の左腕へと向けたかと思うと、躊躇う事なく5発ほど発砲した。


「ッ!」


 思わず身構えるも、何か当たったような感覚はあったものの痛みは全く感じる事は無く、ステータスにも何の異常が無いことはすぐに分かった。


「ビビっちゃって……ねえアマテラス、誤射がないって事はエルに斬られても大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ。ちょっと違和感を感じるかもしれませんが」

「なるほどね。エル、試してみよ!」

「少しは躊躇ったらどうだろう……」


 リリーは俺にその気がないという事を悟ったのか、不意に俺の腕を掴んだ。


「えい」

「おまっ……」


 そして、自分へと刃を向けさせたかと思うと、彼女は自分の腹に刃を突き刺した。

 俺の手元には確かな手ごたえがあったものの、リリーはと言うと特に苦しそうな表情をするでもなく、何事もなかったかのように離れる。


「刺された感というか、変な感じはするねえ」

「大丈夫そうだな……でも出来る事なら避けて斬りたいもんだ」


 刀を鞘へと納め、思わずため息をつく。


 リリーと何回か討伐依頼を一緒にこなしてみたのだが、一緒に戦う分にはかなり心強い味方だ。

 ただ、気になった事があれば、それが危険な事であったとしても死にそうにはないと分かれば試そうとするのはどうにも心臓に悪い。


「リリー、出来ればもう少し安全に動けるか?」

「んー、その為には何が大丈夫で何がダメかをハッキリさせないとダメでしょ? 何事にも計画を立てるための情報を集めないと」

「まあ……それもそうか」

「怖い事ではあるけどね、だからこそ今、強引に確かめておきたかったの。ごめんね?」

「あんまし他の人相手にしない方がいいぞ?」


 ゲームでなら俺もふざけて彼女のような事をする時はあるが、現実でそういった事を試す度胸は流石に無い。

 それに普通なら万が一があり得そうなものは実験せずにあり得る前提で動くものだ、もしもこれで俺かリリーが死ぬような事があってはならない。


「次からはそうだな……了承をだな」

「いやあ、多分了承しないと思うんだ」

「それも……そうか」

「そこで提案なんだけどさ、アマテラス達が大丈夫って言った事は素直に信じてみない?」


 彼女の発言に少し驚いた。

 確かに俺はアテナの事をちゃんと信じているのかと言われると、微妙に疑っているところはある。万が一だとかもしかしたらと言って試す事をしない、というのは彼女たちを信じていないと言われても無理はないだろう。


「私達はガイドだけどさ、やっぱり個人的な進んでほしい方針とかはあるから……そんなに妄信されても困るけどね?」


 無意識にアテナの方を見るとアテナがそう言った。

 少なくともアテナが上げて落とすような事をするようなタイプには見えない。前の世界の常識では考えられないような事でも、もう少し素直に信じてもいいだろう。


「分かった。ただ……リリーももう少し常識的な行動をしてくれると助かるな」

「善処はするよ、出来るだけね」


 あざとく笑うリリーがどこか儚く見えたような、そんな気がした。

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