第16話
リリーと一緒に行動するようになって1か月。相変わらず彼女の行動は読めないところがあったが、戦闘での動きやすさや彼女の豪胆さによって助かるところが多く、正式に継続してパーティーを組む事が決定した。
「いやあ、ありがとね? 信用してくれて!」
「まあ悪いヤツじゃないんだろうってのは分かるしな、これからもよろしくな」
にへら、と緩んだ笑顔を浮かべる彼女と拳を突き合わせる。
「そんなお二人にお願いしたい仕事があるんですけれども、いいでしょうか?」
「何でしょうか、ブラウンさん」
人の少ない真昼間の酒場で、俺達のテーブルにいつの間にか受付の女性が立っていた。
彼女は俺の冒険者登録をしてくれた時の女性だ。どうやら名前はブラウンというらしく、この酒場でそれなりに長く勤めているのだそうだ。
ギルドからの差し入れという事でジュースを俺達のテーブルの上に置き、空いている席へと彼女は座った。
「仕事の話?」
「はい。受けるかどうかは話を聞いていただいてからでも結構ですので!」
「構わないよ、どんな依頼?」
リリーから緩んだ笑顔はいつの間にか消えており、真剣な表情の彼女がそこにいた。
「ゴブリンシャーマンやゴブリンメイジというゴブリンはご存じですか?」
「
「魔法を使うゴブリン……でいいんですかね」
「そうです! 彼らは知能も高く、群れのリーダーとなる事も多い危険なゴブリンです! 彼らの討伐という事になりますね!」
ブラウンさんはそう言うと机の上にいくつかの資料を広げる。
「ミルズから北東方向の森の中なんですが、商隊の方や他の冒険者からの報告によればゴブリンの襲撃が多発しているようなんです! 魔法による攻撃を受けたという報告も上がっておりますので、恐らくこの2種のうちのどちらかがいると見ていいでしょう!」
「そのゴブリンの巣とやらの場所はどこなの?」
「それがまだそこまで調べられていないんです……なので、貴方達の仕事は巣の場所の特定と目標の討伐。この二つとなりますね!」
情報を与えられて行ってきます。そう易々とお使い系ミッションというわけにはいかないようだ。
「肝心な報酬はどうなの?」
「報酬は3000ウル、それとシルバーランクへの昇格となります!」
「なるほど。報酬額は並でも次からの仕事がイイものが受けられるようになると」
「そういう事です!」
悪い内容ではないだろう。リリーは軽く首を傾げて目で俺に受けるかどうかを任せるといったジェスチャーを飛ばしてきた。
「ちなみにその依頼の達成期限は?」
「今日から1週間となりますね! それ以降の場合は通常の依頼として貼りだされる形となります!」
「なら受けますよ。明日から行動開始って事でいいか?」
「私は構わないよ、エルの判断に任せる」
簡単な受注手続きを済ませると、ブラウンさんはまたカウンターの方へと歩いて行った。
「ねえエル、ちょっと買い物に付き合ってもらってもいい?」
「いいけど……何を買うんだ?」
「武器だよ、パーティーで動くのならライフルを持ってもいいかなって思ってさ」
「ライフルか……なら弓の方がいいんじゃ?」
ステータスにもよるが、1発あたりの攻撃力は基本的に弓の方が高くなりやすい傾向がある。銃をメインで使う彼女の魔力のステータスは高いのだろうが、それでも弓の攻撃力には劣ってしまうだろう。
「当たらない弓よりも当たるライフルだよ。それにこの世界じゃ変なワザもあるみたいだしさ」
「スキル……みたいなやつの事か」
「そーそー、まあ試しに使ってみてダメそうなら拳銃メインにするしさ」
勘定を済ませ、リリーと共に鍛冶屋へと向かう。
剣と盾の看板に「パヘスト工房ミルズ店」と書かれており、どうやら広く展開するチェーン店の工房のようだ。
俺が住んでいた村と同じように商品が陳列されており、あの村で売られていた武器と同じようなものでも微妙に性能が違い、こちらの方が優秀と思えるものも、逆にあちらの村の方が優秀だと思えるものもある。
「お、リリーちゃんじゃん。そっちの人は彼氏?」
「やっほー、ただの仲間だよ」
店の奥から顔を覗かせたのは黒のショートヘアーの14歳ほどに見える女の子だ。
どうやらリリーとは顔馴染みのようで2人で何やら雑談をした後、リリーは陳列棚に飾られた銃を眺め、女の子はこちらへと歩み寄ってきた。
「私の名前はカナ。ミルズ支店の店を任されてるんだ」
「俺はエルドレッド。エルって呼ばれる事が多いな」
「よろしくね、エル。リリーちゃんとパーティーを組むようになったんだって?」
「ん、ああ。長期的に組ませてもらう事になったよ」
「へえ珍しい……あの子が組むって決めるなんて」
どうやらリリーは昔から色々と難のある性格だったらしい。
才能はあるが人と足並みを揃える事をあまり好まず、毒こそ吐かないものの気が付けばパーティーから抜けているという事が殆どだったらしい。
「そんなリリーちゃんが組もうって言えるって事は君も中々の実力者なんだよね!」
「ブロンズランクだけどな、努力はしてるつもりさ」
「得物は刀か……ウチの自慢は剣なんだよねえ」
残念そうに顎に手を当てながら腰に下げた刀をじっとカナは見つめる。
「よかったら見せてよ、余裕が出来たら乗り換えって線もありだしさ」
「お、もしかして剣もいけるクチ?」
パッと表情が明るくなったかと思うと俺の手を握り、何本もの剣を取り出して商品の説明を始めた。
まだ少し手が出せないような値段の剣の中に、何本か次の武器として採用してもいいと思えるような代物もあった。
「カナ、イチャついてないで会計」
「っとと、別にとるつもりはないからさー!」
「だから私のじゃないって!」
騒がしい二人を見守りつつリリーの手に握られているライフルへと目をやる。
シンプルなボルトアクションライフルのようで、それ用の弾倉と弾薬箱も購入するようだ。
「えーと、全部合わせて1万だね」
「えらく豪勢だな……」
「消耗品も含めてだからね、折角弾が大量に持てる世界なんだし楽しまなきゃ!」
ライフルを背負い、太もものホルスターにはオートマチックの拳銃。
リリーの見た目に思わず苦笑いを浮かべつつ、俺達は残りの時間を楽しんだ。
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