第6話
「やるじゃないか! これが報酬だ」
村へと戻り、依頼達成の報告をした俺は報酬を受け取っていた。
「ありがとう」
「どう使うかはお前次第だが、考えて使うんだぞ?」
「分かってるさ」
衛兵にお礼を言い、彼の元を離れる。
「なあ、アテナ」
「んー?」
「何で俺が虚偽の報告をしてないか疑わないんだって聞いちゃダメなやつか?」
「あんまり質問しない方がいいやつだね」
別に魔物の素材を持ってきたとか、カメラで記録したというような事は一切しておらず、口頭で完了を伝えただけだ。
ゲームでも○○何匹の討伐、などがあるが、一体何をもって判断しているのかは謎なままだ。
「仮に聞きまくったらどうなるんだ?」
「はぐらかされるよ、どうやってもね」
「お約束の定型文返しか」
「そういうこと」
新しい世界と言っても、あまりにゲームらしいアテナの返答に思わず苦笑いする。
この世界は説明しようにも分かるから分かる。としか言えない部分も多く存在しており、いずれそういった部分の学問が発展していけば有耶無耶な答えではなくなるのかもしれない。
歩みを進めていると、少し進んだところからリズムよく鉄を叩くような音が聞こえ始めた。
今俺が向かっているのは鍛冶屋だ。やはり戦闘の結果の決め手になる要素として装備の存在は非常に大きい為、何かいいものがないか見に来たのだ。
店の中に入るとカウンターにはボディビルダーのような筋骨隆々の男が立っており、俺の姿を見るなり店中に響きそうな大声で語りかけてきた。
「ようエル! 何か必要な物でも?」
「ああ、ちょっと金が入ったから」
「お前にオススメできそうなのはそこのショーケースの中のやつらだな。値札がついてなかったら聞いてくれ!」
店の中に他の客がいないからいいものの、思わず苦笑いしてしまいそうな声にどうリアクションをすればいいか少し困ってしまう。
「やっぱ……変な感じがするな」
ゲームで言えばここは序盤の街のはずだ、それなのに並べられている商品の値段は安価なものから高価なものまでズラりと並べられている。ここで気になるのは高価な品だ。
普通は高価とは言っても頑張れば稼げなくはない。程度の値段の物までのはずなのだが、数百万もするようなエンドコンテンツかと思わせるような値段の物も陳列されているのだ。
「とりあえず……お」
手の届きそうにないものはスルーし、買おうと思えば買えそうなものを中心に眺めていく。
その中で目を引いたのは一振りの刀だ。値段は5000ウルとそこそこの値段ではあるものの、日本人の血が騒ぐのかうっとりと見惚れてしまう。
「エル、刀使えるの?」
「剣道をした事はあるくらいだけどな」
「そういえばエルは刀と剣の違いって知ってる?」
「知ってるさ、形とかそういう――」
「戦い方の違いだよ」
「剣はどちらかというと突き、刀は斬るのが得意なんだったか?」
「あとは体の使い方だね、剣は斬る時にどっちでも斬れるけど刀は刃を返さないといけなかったり」
アテナが武器の違いをつらつらと説明し始める。
結論から言えば、剣と刀は似てはいるものの全く違う武器であるというところだ。
そこを吐き間違えてしまうと、それが原因で戦いに負けてしまうという可能性がある。という事をアテナは繰り返し口にしていた。
「なら、いっそ使い分けてみるとかはどうなんだ?」
「なるほど、でもお金かかっちゃうよ?」
「その分頑張るしかないさ。それに剣は今使ってるのを使えばいいしな」
ポーチの容量さえ許せば複数の装備を持ち歩くことは可能だ。素早く武器の切り替えをするとなるとその動きの練習をしておかなければならない、という課題はあるが。
「防具は……強化する程度にしておくか」
鍛冶屋では装備のアップグレードも対応している。新しく買うよりもコスパが良い場合もあり、今回の場合は防具に鉄板を装着する事でプレートアーマーに近い防御力へと底上げするものとなる。
「決まったか! ええと、全部で会計が8500ウルだな!」
「オッケー、確認してくれ」
「確かに受け取った。また利用してくれよな! って、ポーチが一杯じゃねえか」
「っと……しまったな」
アルファテストの際に銃などの武器を詰めたままにしていたのを忘れていた。
しかもその中には刀も入っており、どうせ試すのならこれを使った方が良かっただろう。
「この刀、下取りに出す事は出来る?」
「あぁ、ただコイツの買取価格は500ウルだがいいか?」
「構わないさ」
「オーケー、ま、無理に手放さなくても手で持って行くのも手だぞ?」
「より良いものがあるならそっちを使っちゃうだろうしな、中古で誰かに使ってもらった方が刀も嬉しいだろうし」
「そういう事なら分かった。ほらよ」
「ありがとな」
手持ちはかなり減ってはしまったが、装備の更新ができたのは進展だろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます