第7話

「うーん、やばいな」


 この世界に来てから一週間ほど経っただろうか、俺はベッドの上に寝ころんだまま天井の木目を眺めていた。

 何度目覚めても意識はあちらの世界に戻るという事は無く、もう無駄に働かなくて良いという事実が俺を怠けの快楽へと引きずり込んでいた。


 華々しい主人公のような生活もいいが、だらーっとスローライフ系の主人公もアリだろう。

 そもそもの話、主人公補正だか何だか知らないが、俺の生活を覗き見されるわけでもないのだから主人公もへったくれもないだろう。


「アルファテストで結構頑張ったおかげでレベル上げるだけ強くなれるよー?」

「んー」

「ずっと家の中にいてもゲームも何もないし、面白くないよー?」

「んんー……」

「んー……あ、頑張って稼げば税金とか今のところないし、稼いだ分だけ好き放題できるよ? 前の世界では出来なかった豪華な食事、いい家とか部屋を借りるのもハードルが下がるだろうし、カワイイ女の子と――」

「んんっ」


 アテナの言葉を咳払いして遮る。


 税金。前の世界ではほぼコレの為に仕事をしていたようなものだが、それが無いこの世界では稼いだ分が生活費を除いた全て手元に残る。

 そして、何となく気付きたくない可能性に気が付いてしまった。


「今後税金が実装される予定は?」

「私達神としては無いよ? でも、もしも他の転生者が王様になったり、有名になって政治介入するようになったら出てくるかもね」

「ふむ……」


 ベッドから体を起こし、いつの間にか静止していたアテナへと視線を向ける。


「そういや、この世界が……なんて言えばいいんだ? 正式サービス開始?」

「それでいいよ」

「サービス開始してからどれくらい経つんだ?」

「そうだねぇ……人間も受け入れ始めたのは3か月前くらいかな。それを含めなくていいなら半年くらいだけど」

「人間を含めない?」

「この世界は新しい世界だけど、向こうの世界から溢れる魂の受け入れ先としても機能するって話はしたよね。それって人間に限った話じゃないんだよ」


 アテナから出た言葉に俺は驚いていた。

 正直、転生という事については漫画やラノベといったものでブームになっていたのもあり、こういうのはマジであるんだな。という程度の認識だった。

 しかし、そういったもので転生しているのは人間だけであり、それも主人公1人だけというケースが多い。

 複数の転生者がいる。というのを知った時はそこまで驚かなかったが、人間以外で転生をしているというのは予想外だった。


「人間以外の転生者って……魔物になるのか?」

「そういうパターンもあるね、最も、人間に転生してる子もいるみたいだけどね」

「待てよ……人間が魔物に転生してるって事は?」

「あると思うよ、少なくとも私の知ってる中ではいないけれども」

「魔物にも主人公補正ってあったり?」

「そりゃああるよ、転生者に与えられるスキルだからね」


 魔物が主人公だとすれば敵は誰になるだろうか。他の種族であったり、同種族の中の犯罪者達……そう考えたい所ではあるが、敵としての筆頭は俺達人間だろう。


「魔物にもその、冒険者的なものはあるのか?」

「さあ、そこまでは知らないよ。でも力を付けたスキル持ちの魔物が人の村を壊滅させる――その可能性は大いにあるだろうね」

「それを早く言ってくれ!」


 ベッドから跳ね起きて身支度を済ませる。

 何がスローライフだ。楽できる世界かと気を抜いてしまったが、下手をすればここは地獄のような世界なのかもしれない。

 

「言わなくても分かるかなあって……ほら、人間って知能特化で進化したし」

「あのな、一部のスゴイヤツらは除いて普通は無理だってんだ」

「そお?」


 微妙に腹が立つが、ここで口論をしても仕方がない。


「とにかく……レベルを上げて自衛出来るようにしておかないと」

「ま、それがこの世界で生き残るには一番確実だね。やる気は出た?」

「あぁ、レベリングの為の狩り場も探さないとな」


 レベリングをする上で狩り場であったり、周回をする場所というのは必須となる。

 俺は周辺の地図を取り出し、外に出た記憶を頼りに魔物を見た場所へと印を書き込んでいく。


「へぇ……意外とやるじゃん」

「一応ゲーマー名乗れるかなってくらいはしてたからな」


 今の段階ではこの地図は大して使い物にはならないが、もう少し狩りを続けていれば自ずと効率の良いルートが見つかるだろう。


「さて、刀の稽古もして早速仕事に行くか!」


 怠けたいという気持ちはスキルによって消されてしまったのか、今の俺にはより強くなるという為の向上心と、狩り場を見つけたいという探求心が強くなっていた。


「結構……流されやすいんだろうな、俺」


 思わず鼻で笑いつつ俺は家の外へと歩み出した。

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