第4話 数当てゲーム 初戦
嫌な汗をかく……手が震えカードをばら撒いてしまうのでは無いかと思うが……
こんな場面でも下手なプライドのようなものが、その動揺を隠そうと無表情を作り出している。
深呼吸する……。
まずは自分のカードを見る。
7と書かれたカードが見え、もう1枚は自分の目では確認できない。
7と書かれたカードは私にしか確認ができていないカード。
凛とした知的な女子生徒……ムツキ キョウカ。
彼女のカードを見る。
5と書かれたカードが見え、もう1枚はキョウカにしか見えていないカード。
5と書かれたカードは私と保険医にしか見えていない。
保険医の緑木のカードを見る。
6と書かれたカードが見え、緑木にしか見えていない裏のカード。
6のカードは私とキョウカにしか見えていない。
偶然にも5、6、7のカードが私にはオープンになっている。
1、2、3、4のカードが伏せられているということだ。
「よーし、じゃぁゲーム開始だ、時計周りに順番に質問していってもらおーか」
仮面の兎はそう説明を加える。
「2人に質問するもいーし、あえて1人にだけ質問するのでもいい……持っているのは3のカードか?みたいなストレートな質問でなければ基本何でもOKだ」
「あと、不利な質問、答えたくない質問には同じ人間に対して2回までパス有りにする、無制限にすると全部パスするチキン野郎が現れそうだからな、あと、質問に答えた場合はパスの回数は1つ回復、どっちの質問に答えてもパスの回数は二人分1つ増える、パスの最大ストックは5までな……パスを残すためにあえて答えるかどうかも大事な駆け引きってわけだぜ」
兎がそう追加ルールを告げた。
パスが使える数は最初は両者に2回づつ……質問に答えればどちらの質問に答えようと両者に使えるパス回数が増える……確信に迫った質問はパスされやすいが、そうでない質問は回答されやすくなる……パスのストックを稼ぐのも戦術の一つということだ。
「もちろん、一度質問して、回答を拒否られた質問を繰り返すのは無しだぜ……言い回しを変えて結果同じ内容である分にはOKだけどな」
「そんじゃ、改めてスタートだ!」
仮面の兎がそう合図した。
「それでは、私から……質問していいかな」
緑木はそう名乗り出る。
先手が質問が多くでき、答えに近づく事ができる当然だろう。
「どうぞ」
落ち着いた様子でキョウカは言う。
「君たちの持っているカードの数字は『4』より上か下か?」
そう緑木は二人に尋ねる。
自分のカードに目線を落とす……私の持つカードは『7』
答えるのであれば上と答えなければならない。
考える……。
緑木が自分では見えないカードは『6』
私と緑木から見える、キョウカの持つカードは『5』
そして二人から見えない私のカードは『7』
緑木の手にするもう一枚のカードは『4』以下。
彼から『6』『7』のカードは見えていない。
私が今……答えれば『5』の見えている緑木に『6』か『7』のどちらかを所持している事を教える事になる。
最初の質問でそれを教えてしまう事は……
「そうね……その質問はパスさせていただくわ」
そうキョウカが先に答える。
私の目線からは、彼女が下であることは明白であったが……
「私もパスします……」
考えたのち、いきなり質問に答えるリスクから逃げる。
「私の質問は最後でいいわ、黒瀬さん先にどうぞ」
冷静にキョウカは質問の権利を私に譲る。
考えろ……この場合、自分のカードを探るのが先か、相手のカードを探るのが先か……
相手側の視点で考えて……自分にしかわからない数字と、一人にはわからない二人に見えている数字……どっちの数字を教えるか?
……となれば、まず探るべき数字は…自分のカード。
なら、どのように尋ね……少ない情報から答えに辿り着く?
私には『5』『6』『7』が見えている。
であれば、『1から4』の中で絞れればいい……
「貴方たちから見える私のカードは『2』以下のカードですか?」
そう尋ねる。
どちらか答えれば……そう思い2人に尋ねる。
「質問をパスしよう」
緑木はそう即答した。
当然だろう……自分の質問に答えなかった相手にヒントは与えられない。
「……いいえ……『3』以上よ」
笑顔でキョウカは答える。
緑木も戸惑った様子だった。
私のカードは『3』か『4』のどちらかということだ。
「じゃぁ……私が質問するわ」
キョウカは閉じた目を開く……
「貴方たちの見えるカードに『1』のカードはあるかしら?」
そう尋ねる。
私の目で見えるカード『5』『6』『7』のカード。
答えはNOだ。
彼女の質問の意味を考える。
心臓が……大きく高鳴る。
彼女ほどの人間が、こんな失態をするのか……と伺ってしまうが……
そもそもこんなやりなれないゲームだ……
質問が諸刃の剣であることを改めて実感する。
『1』が見えるかどうか……そこに意味は無い。
『1』が見えるかどうか……それを彼女が質問をした理由だ。
これは彼女の目線から『1』が見えていないということだ。
ようするに……彼女の持つカード。
私に伏せられているカードも『1』ではない。
まぁ、私のカードが『3』か『4』であることは彼女が答えてくれたのだが。
ようするに……『1』のカードは緑木の手元か伏せられたカードそのどちらかということになる。
「今回も……答えをパスしよう」
緑木が先に答える。
口調に焦りが見える……恐らく同じ答えに辿り着いたのだろう。
私が『1』が見えないことを証言してしまえば、彼は真っ先に動く。
「私もパスします……」
私もそう答えた。
キョウカはまるでその失態に気がつかないように凛とした姿勢を続ける。
少しだけの違和感……本当に彼女はその失態に気づいていないのか?
「黒瀬さん……君に質問しよう」
当然、そう責めてくる。
「……黒瀬さん、君が持つカードは『2』以上のカードか?」
答えはNOだ……となれば緑木から『1』のカードは見えておらず、私のカードが『2』以上とわかれば、伏せられたカードがわかるということ……ということは……伏せられたカードは……
「……質問をパスします」
緑木に使えるパスを使い切る。
だが……答えは……
キョウカのカードが『1』ではない……となれば彼女の持つカードは『2』以上……それでは、伏せられたカードは……やはり……
目の前の凛とした態度を崩さない女性を見る。
おかしい……何かがおかしい……
違和感……予感……
そうだ……一番最初に感じた疑問はきちんと解消しておかなければならない。
私は質問する。
目の前の女子生徒へ。
「……キョウカさん、貴方へ質問します」
彼女の目を見る。
「あら……なにかしら?」
惚けたような声を出す。
「貴方の目から『1』のカードは見えませんか?」
そこで初めてキョウカは感情を出すように少し楽しそうに笑う。
「あはは、そうね……当然、その疑問は抱くべきね」
質問で答えを導き出そうという、私と緑木とは違い、キョウカは最初から私達を惑わすための質問を使い分けていた。
「その回答は……パスするわ」
意地悪そうにキョウカはそう言った。
再度……整理する。
振り出しに返されっる。
『5』『6』『7』は見えている。
私の伏せられたカードは『3』か『4』
そこで……推理は終わってしまう。
完全にキョウカのペースにはまっている……
「それじゃ、私から質問するわ……あなた達の見えるカードに『4』のカードあるかしら?」
……『1』の次は『4』……私には見えないカード。
答えはNOだ。
ただ、彼女がこの質問から得られる情報……
……自分で所持している可能性のある『1』を質問してくる女だ。
もし、私の裏のカードが『4』で見えていたとしても平然とこの質問をしてくる可能性も考えられる。
どちらにせよ、ここでパスを使えば私は両者にパスを使えなくなる。
私がここでNOと答え、彼女に与える情報量は少ない。
そもそも、彼女は最初の質問を私達をかき乱すためだけに使用し、得られているカード情報を私達より少ないはずだ……。
「私からは『4』のカードは見えません」
そう伝える。
強制回答のリスクを逃れる。
彼女のことだ……ゆるい質問なら私は答えるとそこまで予測したのだろう。
「質問の回答は拒否しよう」
緑木のキョウカへの質問拒否権はなくなる。
同時に二人から私のカードが『4』である選択しは消える。
「私から質問する……」
緑木からだいぶ焦りが見える。
『1』の答えが否定された事への焦りだろう。
「無槻さん、無槻さんから見た私の裏のカードと黒瀬さんの裏のカードを足したとき、その解は6以上になるかい?」
上手い質問かもしれない……。
この質問から私達の得られる情報は少ない。
ただ……緑木の伏せられているカードは『6』この時点で『6』をオーバーしている。
ここで緑木がなんの数字を見ようとしているのか……
自分の『6』も私の『7』も見えない緑木にここから答えに辿り着く手段は思いつかない。
「6以上になりますね……」
キョウカはそう答える……
その質問で緑木がどこまで答えを進展させたかはわからない……
私の番がやってくる……
頭をゆっくり整理する……
『5』『6』『7』の数字が見えている……
多分、キョウカの表のカードは『1』である可能性が高い。
私のカードは『3』か『4』である。
緑木のカードは『2』か『3』か『4』である。
伏せれたカードは『2』か『3』か『4』である。
あくまでキョウカの持つカードが『1』であった場合ではあるが……
そして、私が私の質問でヒントを与えず、私が答えに近づくためには、
二人から見える自分のカードが『3』か『4』かを確定させることで答えに近づく。
やはり、そこからだと思う。
「……わたしの裏のカードは『4』以上ですか?」
そう二人に尋ねる……
緑木は顔を伏せ……
「回答を拒否する……」
と告げる。
私に対する最後のパス件を使う。
「……そうね、私も拒否するわ」
さすがにここから先が思うように進展しない。
少しだけ焦りを覚える。
「それじゃ質問するわ……貴方たちから見える私のカードは、貴方達の持つカードより上か下か……それくらいなら教えてもらえます?」
そうキョウカが尋ねる……
彼女の裏のカードは『5』、私のカード『7』
聞いてどうなる?また……私達を翻弄しているのだろうか?
残りのパスを使い切らせようとしているのだろうか……
「………うえ……です」
そう私は先に答える。
ここで、パスを使っては、次で拒否できない状態で畳み掛けられない……
「下だな……」
緑木はパスを使用できない……そう答える。
「……案外、つまらなかったわね」
そうキョウカは吐き捨てた。
「答え合わせ……してもいいかしら?」
キョウカは仮面の兎にそう告げる。
「あ……あぁ、てめぇ、まさかもうわかったのか?」
いったい……どこで?
彼女がした質問は『1』が見えるか?という質問と…
次は『4』が見えるかという質問…
自分の裏のカードが私達の持つカードより上か下かという質問だけ。
「ついでに、全員のカードが何か……それも答ていいわ」
その場にいる全員が……困惑する。
本当にそんなことが……
「黒瀬さん、貴方のカードは『3』と『7』のカード」
そう私のカードを指差して言う。
「緑木先生……先生のカードは『4』と『6』のカード」
そう緑木のカードを指し言う。
「そして、私のカード……『1』と『5』のカード」
自分のカードを少し上にあげそう言った。
「伏せられたカード……『2』で間違いないかしら?」
キョウカは目線を伏せられたカードに落とし言った。
「ぐぬぬぅ……小生意気な娘、正解だちきしょーーーッ!!」
仮面の兎は、カードをひっくり返すと『2』のカードが現れる。
「それじゃ、このコインは頂けるのね」
伏せられたカードの側にあったコインを一枚、キョウカは手にすると席を立つ。
「こらっ、待て……まだ終わってないだろ、きちんとタネあかしくらいしやがれっ」
「このままじゃ、今夜ゆっくり眠れないだろっ」
仮面の兎がそうキョウカを呼び止める。
「別に……先生と黒瀬さんも質問もしていない私に自分から何のカードを持っているのかを教えてくれただけ」
そう告げるが……
「きっちり言えっ!」
仮面の兎がそう力強い口調で言った。
その言葉に再びキョウカは椅子に座る。
キョウカは一つめんどくさそうにため息を吐くと、ゲームの流れを振り返るように語り始める。
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