第3話 数当てゲーム
赤桐はキョウカとのやり取りを拒み再び、私とギンと赤桐の3人での会話になる。
「……どうして?」
白を吊り出し、黒を追いやる……悪い作戦ではない気がしたが。
「このゲームの本当の狙いだよ」
赤桐のその台詞に、少しだけギンが眉をひそめる。
「狼を告発をミスすれば全員が死……それが嫌なら生贄を差し出せ」
怖い顔で赤桐がその台詞を吐く。
もちろん、そういう説明が先ほどされたことは理解している。
「……もし、このまま狼を特定できずに12時間が過ぎれば……」
そう赤桐は私の目を覗くように見る。
「全員の死と誰か一人の死を天秤に架けたとき……一か八かで狼を当てようなんて話にはならないだろう、そうなれば結果僕らはイケニエゲェムとやらに参加しなければならない」
赤桐はその当たり前のような話を続け……もう言いたいことが解るだろと目が告げている。
「イケニエゲェムは羊を一人差し出さなければならない……ここで間違って狼を差し出せば同じく全員の死に繋がる、となれば真っ白な羊を生贄に選ぶ必要がある」
その言葉に私は愕然とする。
白と解った仲間を私達に裏切らせるゲームだということだ。
「安全な白羊は真っ先に、生贄に選ばれる」
そう赤桐は説明を終える。
「長く生きていると……どうにも捻くれて考えるようになってしまってね、さっきの賢そうなお嬢さん、とっくにその事に気がついてる」
「そして、犯人を特定するのと同時に安全な羊も探しているように見えてね」
そう赤桐は苦笑した。
「……君たちが僕を信用してくれるなら僕は君たちを裏切らない」
そんな優しい言葉に恐怖を覚える。
私達……3人でチームを作り……他の人間から切り崩していく……
言い方は悪いが、そういう事になる。
「……わかった、俺はおっさんを信用する」
驚く……ギンは正直この手の話を拒むと思ったが……
この言葉は手を組むという意味で間違いないだろう。
「……ただ、一つ条件を出していいか?」
ギンは続ける。
「聞こうか」
少しだけ緊張が走る。
「……レイは無理に引き込まないで欲しい……」
そして歯切れが悪そうに……
「そのうえ、レイの命を優先で助けて欲しい……」
条件の悪い話……要するに私に手を汚すような真似はさせない。
でも、私の命は助けろそう、ギンは赤桐に言っている。
「その条件を飲んでくれるなら、俺はおっさんに基本従う」
その言葉にさすがに赤桐は複雑そうにすると……
「……結果、プラスかマイナスになったのか、解らないけど」
やれやれと赤桐は苦笑しながら。
「わかったよ……君が協力してくれるなら僕もレイスちゃんの事を守るとしよう」
そうギンと赤桐は契約を交わした。
ガコンッという音が響く。
同時にこの広間からいくつか見える扉の一つが自動的に開いた。
「先程までは、入れなかった部屋だね」
赤桐は開いた扉を眺め言った。
「行ってみるか?」
ギンは赤桐に尋ねると、
「そうだね、今は少しでも手がかりが欲しい」
赤桐は立ち上がりそう言った。
「レイはどうする?」
そうギンが尋ねてくる。
此処に一人残されるのも気味が悪い。
「わたしも行く」
そう答え立ち上がる。
ふと、広間の中央の大時計に目がいく。
残り 08:15:44 と表示され、秒毎に数字が減っていく。
残り8時間……ということだろう。
人、1人の死を目の当たりにしてさえも……いま起きている事態を未だに飲み込めない。
赤桐とギン、私がその部屋にたどり着いた時には他の人間もすでに集まっていた。
部屋は薄暗いライトにだけ照らされ、殺風景な部屋に、教卓のような机にはまたモニターが乗っていて、その横に置かれた椅子に先客が一人座っている。
すでにこのゲームの犠牲となった男、キダ リョウの身体が縛り付けられるように椅子に座っている。
首もなく誰の死体かすら、先程の事件を見ていなければわからない。
「レイ……」
ギンが私に気遣い外に連れ出そうとするが……
「大丈夫……」
その場に残ると告げる。
モニターに電源が入ると、薄暗い電気は消えモニターの明かりだけが部屋を照らし出すと、モニターの映像が動き出す。
黄色の罪の告白というタイトルらしき文字が流れ、映像は何処かの倉庫のような場所。
顔は見えない…
その倉庫らしき場所の壁側で、追い詰められるように、白く長い髪の制服姿の少女は震えているようだった。
何者かの両手が彼女の逃げ道を塞ぐように壁に手をついている。
「おーいっ、何してんだよっ!」
倉庫らしき場所の外から声がする。
「るっせぇなぁ、先帰れって言ってんだろ」
その声に両手をつく男が反応する。
「たくっ、てめぇもさっさと俺に付き合えって、クラスで浮いてるてめぇに俺がかまってやるってんだ、悪い話じゃねーだろ?なんだったらよ、明日からてめぇの事悪く言ってる奴ら、俺が絞めてまわってやってもいーぜ?」
男性が女性を口説いている……というよりかは、立場の弱い女性を強引に口説いている様子が伺える。
「おいっキダーーーッ、なにしてんだよ!」
また、別の誰かが女子生徒を強引に口説いている男子生徒を呼んでいるようだった。
「たくっ、うっせぇって言ってんだろ」
男子生徒はそう答え、苛立ちを目の前の女子生徒に移すように……
ダンと右手を壁に強く叩きつける。
ビクリと女子生徒が反応するが……
「さっさと答えてくれない?まぁ……断ったら明日からあんた学校来れるかわかんねーけど」
男子生徒のその言葉に震える女子生徒
「んっ……なんだ、お前……なにしっ……うわっ、あっぶねぇ」
また外からそんな声がする。
今度はなんだと男子生徒が後ろを振り返るような動作が映像から見て取れる。
「なっ!?」
男子生徒の居た所に木刀が振り落とされる。
咄嗟に男子生徒は回避するが……
「なんだってめぇはっ!!」
相変らず映像には誰一人と顔は映らないが、新しく現れた人物の制服から、その人物が女性である事が見て取れる。
怯んだ男の隙をつき、木刀を振り回す女子生徒は、震える白髪の女子生徒の手を取ると外に駆け出した。
映像は……しばらくしてプツリと途切れると再び薄暗い明かりが部屋を照らした。
映像が終わり……考えさせられる事は沢山あったが、一番に浮かんだ事。
決して褒められるような人物では無かったが……この惨劇の被害者になるだけの罪を犯していたのだろうか……。
「彼女に見覚えは……?」
赤桐は、私とギンに尋ねてくる。
映像に出てきたキダという男にからまれていた、女子生徒のことを聞いているのだろう。
……無いといえば嘘になる。
ただ、正直……今の映像に映ったキダという男以上に接点が無い。
恐らく、ギンも一緒だろう。
「逆におっさんは……?」
そのギンの質問に。
「……正直にはっきりと記憶に残るような彼女との接点は思い当たらない」
少しくらいはかかわった記憶はあるのだろうか?
もしくは、出会っていた可能制は否定できないのだろうか……赤桐も難しい顔で答える。
ぞろぞろと部屋の外へと出て行く。
それにならい、ギンと赤桐、私も部屋の外へ出るが……
「なんだ、これ?」
ニット帽をかぶった男子生徒……
確か、ミズグチ ケイと名乗っていた男子生徒だ。
驚く彼の目線に目をやると、大時計のある広間に何時の間にか大きなテーブルが用意されている。
そのテーブルの上で、仮面の兎がここに居るものたちを待っているようだった。
各自のペースで仮面の兎に近づいていく。
「早く来い、うす鈍ろ共っ!」
仮面の兎はそう悪態つくように自分の元へ全員を呼びつける。
「これよりゲームを開始するっ」
全員がそれぞれ色々な表情で時計に目をやる……
まだ…7時間以上の時間が残っている。
「安心しなぁ、イケニエゲェムとは別で、命のやり取りは無い」
仮面の兎はそう告げる。
「ただ、勝者にはイケニエゲェムが有利になる、コインを贈呈するぜぃ」
いったい誰がどう動かしているのか……
仮面の兎は手にした3枚のコインを見せる。
「名付けてイカサマコインだっ」
「まずは、このコインがどうイカサマかを説明してやる」
全員が仮面の兎に注目している。
「イケニエゲェムに置いて、このコインの所有者はこのコインを使用することでいずれかの権利を得られる」
「1つ目……自分に入った票を1票無効とする」
「2つ目……別の人物から投票権を買い取ることが出来る、正し相手はそれを拒否することはできる」
「3つ目……全員が誰に投票しているのかを覗く事ができる、ただしそれらの内容を別の誰かに伝える事は禁止」
「いずれか、1つの権利を選択して得られる」
……血の気が引いていく。
人を殺すゲームで有利に働く人物が現れる……
それがどういう結果に繋がるのだろうか。
「……それで、ゲームとやらの内容は?」
……シシド リンネと名乗った完全に一人浮いている人物。
まるで、この現状を楽しんでいるとさえ、見える。
「そんじゃ、説明するぞ」
「ここに、1から7までの数字の書かれたカードがある」
仮面の兎の前に1から7までの数字が書かれたカードが並べられる。
「これを3人1組で対戦してもらい……1人2枚のカードを配る」
「そのうち、1枚は表向き、1枚は裏向き」
実際兎は1と書かれたカードを裏向きにもう1枚がこちらから見えない表向きに持った。
「1枚は自分で見えるがもう1枚は自分では見えない」
「対戦相手である敵も同じ……ようするに相手のカードも1枚は見えて、もう1枚は見えねぇ訳だ」
「それで、伏せられてる1枚のカードを1番最初に言い当てた奴が勝利、勝負にあたってどんな質問するのも有りだ、ただ正直に答えるかどうかは質問された側に任せるぜっ、不利になるような質問は答えなくてもいいし、相手を惑わせるような言動をしてもいい、ただ……数字を偽る答えだけは禁止だ」
そう仮面の兎は言う。
「そうだな……4分の1の回答だからな、ペナルティが無かったら適当に答えられても面白くない……数字を偽った時と、回答を間違えたときは、イカサマゲェムでの投票権を没収するぜ」
仮面の兎はそう説明を終える。
「なるほど……」
赤桐が帽子に手を添えながら、やられたという表情をする。
「なにが?」
ギンがそう赤桐に尋ねる。
「羊に餌を巻いているわけだ……美味しい餌を手に入れるのに必死になり、ゲームの進行次第では仲間意識が薄れ、狼探しも散漫になる、完全に向こうのペースって訳さ」
赤桐がそう答えた。
「そんじゃぁ、最初の3人前に出な、参加は挙手制、早いもの勝ちだぜ」
どちらにせよ、全員強制参加なのだろう……いったいどこで出るかだ。
「……ここは僕らはバラけるべきだろう……命のやり取りはないとは言え、争う形になる、下手に誰か1人だけコインとやらを手にすれば信頼関係にも支障が出るかもしれない」
そう赤桐が言う。
「……僕が最初に出よう、そこで2人はゲームの仕組みを掴むんだ」
そう赤桐は告げ、自分が最初のゲームへ参加しようとするが……
「待って、私が出るっ」
私は赤桐の間に割って入る。
恐らく、1ゲームの流れを見てその後に生かせるのは間違いなくギンと赤桐さんの2人。
手に入るイカサマコインというものも、きっと私には上手く扱えない。
だったなら、可能性を2人に宅した方がいい。
私は先人を切って配置された椅子の一つに座る。
左側面に配置された椅子が動く。
思わずドキリとする。
知的な眼鏡、スタイルの良い身体……
ムツキ キョウカは変わらぬ凛とした姿勢で席に着く。
「あと……一人っ!」
仮面の兎がそうせかすと。
「ならば、自分が……」
白衣を着た男性……保険医のミドリキ シンノスケ。
右側面の席に座る。
「よし、揃ったなぁ、では最初のゲームの始まりだぁ」
仮面の兎はそう叫ぶと、カードを器用にシャッフルしている。
突然、3人の机の一部が切り抜かれたようにテーブルの中に沈んでいくと、同時に三人の目線からこちらの手元が見えなくなるくらいの壁が現れる。
そして、再び奥に沈んだテーブルの一部が元に戻ると、カードが裏表一枚置かれている。
「手元に上手くスライドして手に取り、自分の胸元で広げなっ」
「いいか、裏になってるカードは見るなよっ、カンニングが認められた時点で失格だぜ」
仮面の兎に言われるようにカードを手に取り、すでに見えてるカードを自分側に、裏のカードを自分以外の人間に晒すように手に持つ。
手元を隠していた壁がテーブルの中に引っ込んでいく。
同じようにカードを手にしている、キョウカと保険医の緑木。
そして、仮面の兎の足元に1枚だけ伏せられたカード。
私の手元にあるのは7のカードと裏返った謎のカード。
目に見える3枚のカード。
伏せられた4枚のカード。
この状況で、自分の有利な質問で情報を聞き出し、誰よりも早く中央に伏せられたカードの数字を言い当てなければならない。
「そんじゃぁ、ゲーム開始だぜぃ!」
仮面の兎の楽しそうな声が響き渡った。
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