第2話 黄は消えて 赤は彩る
11人の自己紹介が終わり、それぞれが起き上がり行動を始める。
最後に自己紹介をした、リンネと名乗った少年は質問されるのを待っていたのか、
少し物足りなさそうに……それでもヘラヘラと笑っている。
「……だめだ、閉まっている」
赤桐がまずは閉ざされた部屋のドアに手をかけるが、頑丈なその扉は押そうが引こうがびくともしない。
「……やはり、それを押せってことでしょうか?」
オレンジ色の髪を後ろでみつあみに縛り、丸縁めがねの似合う清楚な女生徒。
ネネは、扉のすぐよこに設置された怪しげなボタンを見つめ言った。
ボタンを押したらゲームを開始しますと丁寧に書かれているボタン。
そんな部屋のやり取りを見ていると……
「レイ……? 大丈夫?」
少し小声で話しかけてくる男子生徒。
青都 吟芽……青髪の男子生徒が優しく私に笑いかけてくる。
「……ギン、これ……どうなってるの?」
唯一、心を許せる相手にそう尋ねる。
「……わからないけど、割とガチでヤバイ事件に巻き込まれてるのかもしれない」
ギンは周辺の人間を見渡しながら言った。
「とにかく……まずは、この扉の先がどうなっているかだ」
躊躇する周りを他所に、リンネはニヤついた顔で平然とそのスイッチを押す。
ガコンッという何か大きな装置を動かす歯車でも動き始めた音と共に、
チッチッと一定のリズムを保ち音が鳴り続ける。
目の前の扉からカシャンという音が響き、自動でそのドアが開かれる。
その奥に進む連中に並び、私とギンもその奥に進む。
広い部屋……正面の中央の壁には大きなデジタル時計のようなものが設置されていて、表示される数字は、先ほど聞こえたチッチッという音と共に数字が1つずつ減っている。
部屋の中央には演説するような円型のステージが有り、それを囲むように11個の立って作業するような机が置かれている。
少し不安そうにギンの顔を見上げると……
ギンは瞳だけを忙しそうに動かして部屋の隅々まで検索しているようだった。
「……ねぇ、レイ、あれっ」
そして、ギンにそう言われ、その方向を向く。
ステージから何か近づいてくるもの。
ステージの上にのっていたぬいぐるみがまるで自分の意思があるかのように歩いてくる。
「悪い夢でもみてるみたいね……」
白い長い髪、知的な眼鏡に平等という言葉に疑問を持ちたくなるくらいの、人としてのスペックが一つ二つズバ抜けているような女性。
キョウカはその迫り来るぬいぐるみに驚きながらも冷静に言葉を返す。
「よぉ、てめぇーら、いよいよイケニエゲェムの始まりだぁ」
うさぎ?のような可愛らしい耳をはやしたぬいぐるみだが、
先ほどのモニターの人間を連想させるような、フードつきの服を纏い黒と白の半々に分かれた仮面をつけている。
「あの時計が0になったら裁判を始めるから遅れるなよ?遅れた奴はぁ死んでもらわないとならないからなぁ、絶対遅れんなっ!」
ぬいぐるみらしい可愛らしい声で恐ろしい発言を乱暴な言葉でさらりとする。
「君の言うこのゲームに何の意味があるというんだっ」
灰色の短髪の無職と名乗った男性。
灰場はいったいこのゲームをする事に誰が何の得があるのかを尋ねる。
「てめぇら全員、胸に手を当てて考えやがれっ!」
ぬいぐるみはそう吐き捨てる。
「罪深きてめぇらがその罪を裁かれる事無くのうのうと生きて来た事のバツゲェムさぁ、どうだ心当たりがあんだろっ」
そうぬいぐるみが吐き捨てる。
……考える。
ドキリッとする……到底今のこの状況に関係あるとは思えないが……
私の中にある罪深き記憶……
しかしとても、その記憶の中身がここに居る人間と共通しているとは思えない。
それにこんな事を言われれば誰だって、度合いに格差があるにしろ何かしら気にかかる出来事くらい人生に一度体験しているだろう。
「ふざけんじゃねーーーッ!!!」
金髪の制服を着崩した男子生徒…… 黄多 亮は会話を遮るように、威圧的な言葉で入り込む。
「訳わかんねー、誰かしらねーけどつまんねぇ悪ふざけに付き合うつもりはねぇーッ」
リョウはズカズカぬいぐるみの前に来ると、乱暴に耳を掴み持ち上げる。
「あーーーあーーーっ、乱暴とかやめてよほんとーーー」
ぬいぐるみは、リョウに臆する事無くそう吐き捨てる。
「さっさとここから出しやがれ、ここに居る連中締め上げててめぇを引きずりだしてやろうかッ」
ぬいぐるみに向かいそう威喝する。
「まったく……こまっちゃうなぁ、ゲームが始まってもいないのにリタイアは出したくないのにさぁ」
ぬいぐるみはそう発言すると……
ピッ…ピッと音が鳴り響く。
「あっ?」
リョウは自分の近くから聞こえるその音に不思議そうな顔をする。
「……まぁ、全員、このイケニエゲェムへ緊張感が足りていないようだったから、見せしめは欲しいと思っていたんだ」
ぬいぐるみがそう発言する。
「自分の首もとは見えないだろうけど……他のみんなの首もとを見てごらんよ」
そうぬいぐるみに言われ、全員がそれぞれの首もとを見渡す。
黒い首輪のようなベルトが全員巻かれていて、その中央に取り付けられた玉のようなものが、ピッピッという音と共にリョウの首輪の玉だけが光っている。
リョウはぬいぐるみを投げ捨てると、自分の首もとに両手を持っていく。
「な……なんだっ?おいっどうなってるっ!!」
そう周辺の人間に尋ねる。
「あーーー、死にたくなければ皆、そいつから離れたほうがいいぜっ下手に近くに居たら爆発に巻き込まれて片手くらい吹っ飛ばされるかもな」
その言葉に全員がリョウから距離を取る。
ピッピッという点滅が次第に速さを増していく。
「なぁーー、おいっーーどうなっ・・・」
さすがにその後の展開に恐怖を覚え、リョウは周辺を助けを求めるように手を伸ばす。
「何が……なぁーー首が、熱い……なぁーーどうなってっ」
必死に首のベルトを外そうともがき、それが無理だとわかると周辺に助けを求めるように手を伸ばす。
「せんせぇーーなぁ、たすけ……」
ピンク色の長い髪に紅色のスーツを着た女性、桃井 理佳
自分の学園の先生にすがるように手を伸ばす……
「近かよんじゃねーーーよッ!!」
見たことも無いおぞましい顔で、リカは救いを求めるその手を払いのけ、さらにリョウの身体を突き飛ばした。
「……なぁ、誰か……これ、どうなっ……」
再び首のベルトを必死に外そうとしながら……
「熱い……首が……苦しっ……こ……え……が…で……な……」
何かが焦げるような異臭がただよう。
「だ……ず……げぇ……」
ピーーーーーーッという長い音が響き。
パァーーーンッという音と共に眩しい光が視界を奪った。
激しい光に視界の回復が遅れる。
「やっ……いやっ……きゃーーーーーーッ!!」
ネネの悲鳴が部屋に響き渡る。
制服を着崩した身体がその場に崩れるように膝をつく……
その異常な状態に、思考が追いつくのが遅れる。
認めたくなかったのだろう、その事態を……
首の無い身体がその場に崩れ落ちた。
「……見ないほうがいい」
ギンは私の視界を遮るように前に立つと自分の胸元に私の頭を押し付けるようにして視界を閉ざした。
見せしめ……ぬいぐるみの言った台詞。
これから始まる命を賭けたゲームが嘘、偽り無い事を証明するための犠牲。
そして、そんなデスゲームに何故……自分達が選ばれる事になってしまったのだろう……わからない……
わからないけれど……目の前で起きたことは……現実。
人の身体が焦げる異臭……
先ほどまで間違いなく生きていた……キダ リョウという男……
思考が停止していた……
その現実を受け入れる事ができず……私はただ……
ギンの腕の中で震えているだけだった。
・
・
・
あれから2時間くらいの時間か経過していた。
その2時間の記憶が無い……眠っていたのだろうか?
その事すら思い出せない。
「……喉渇いてない?水……飲んで」
何処からか戻ってきたギンがペットボトルの水を私に差し出す。
部屋の隅で蹲っていた私の横に腰掛けると自分の分の水を飲み
「……別の部屋を探索していたら自販機があって普通に使用できたんだ」
ギンは尋ねてもいない疑問に答える。
「俺も飲んでみたけど、毒も無い……安全だよ」
そういつものように優しく微笑む。
「……どうして、こんな事になったの」
渡された水を一口飲み、私はそう口にした。
「……正直、わからないことだらけだよ、本当に恨みがあるならこんな手の込んだ事をせずに俺らを殺す事なんてできただろう」
ギンはそう呟き、周囲を見渡す。
「……どうゆう事?」
わからないと言っている人間にさらに言葉をかける。
「……犯人は……どうしても俺らにこのゲームに参加させて……意図的に殺し合いをさせたいのだろうね……」
そうギンはぼそりと言った。
イケニエゲェム……12時間後に狼を言い当てるか……もしくは、誰か
「……出口は?」
先ほどまで検索をしていただろうギンに尋ねる。
ギンは黙って首を振る。
「……ここ以外に行ける部屋はいくつかあったけど、閉ざされた扉は多く、開く事は出来そうになかった」
そう、少し申し訳無さそうにギンは告げる。
「12時間後……その、いかれたゲームに参加しなければならないの?」
私はギンに尋ねる。
「……レイは……俺が守るから……二人で帰ろう」
そうギンはにっこりと笑った。
その優しさに触れる資格が無いと知りながらも……私は……
その優しさの意味に気づいていながらも……違う人をずっと見ていた私に今更……
「えっと……レイスちゃんに、ギンガくんだったかな?」
トレモントハットの自称探偵、アカギリ コウが目の前に立っていて、二人と目が合うとにっこりと笑う。
「犯人か出口の手がかりでも、見つかりました?」
ギンは少し冷たく赤桐に返す。
「よっこらしょ」
そんな年老いたような言葉を吐いて、私とギンの側に腰をおろした。
「残念だけど……それも踏まえて君たちと少し話がしたくてね」
内緒話のように少し小声で赤桐が言う。
「なぜ、自分らと?正直貴方以上に現状を把握できてないっスけど?」
拒絶するようにギンは返すが……
「僕、おじさんはね……君たち二人に少し期待しているんだ」
赤桐は唐突にそう切り出した。
「現状、ゲームの本質には正直、おじさんの頭にはついていけないことばかりだが……人を見る目は少し鍛えてきたつもりでね……君たちは現状を飲み込む能力……観察眼、そして信用性の高い人間だ」
帽子に左手を添え、深々とかぶった帽子から片目を覗かせ、私とギンを見透かすように見る。
「私たちより、賢そうな人なら他に沢山いると思いますが……」
私がそう答えるが……
「もう一度言おう……危機認識、観察能力、人間の信用性……この3つを欠くことなく持っている人物は君たち二人が一番だという事だ」
赤桐の判断基準はわからないが、私達と手を組みたいということなのだろうか?
「ここに居る連中……話しかたからあのモニターに移った人間と一致しそうな人は居たかい?」
赤桐はそう尋ねてくる。
「……まともに会話したのは赤桐さんが始めてなんで……」
ギンは素っ気無く返す。
「……無理だと思いますよ」
続けて私が言う。
「……あのモニターの人間がここに紛れてる保障も無いですし、恐らく喋り方の特徴を読み取られないように喋り方や口調を変えてましたから」
私がそう返すと赤桐は嬉しそうに笑って。
「さすがだね、レイスちゃん……君たちはきちんと現状に飲まれず観察することができている」
自分が見込んだだけの人間だと嬉しそうに笑った。
「3人だけで、こそこそ会話中申し訳ないのだけど、少し私に話を聞かせて貰ってもいいかしら?」
人の影で視界が暗くなったと思うと、女性が一人目の前に立っている。
知的なめがねでスタイルの良い女子生徒 ムツキ キョウカ
赤桐とは違い、その場に立ったまま尋ねてくる。
「取り合えず、現状犯人の特定は難しい……であれば、まずは貴方達が白と少しでも証明できるような証拠が欲しいのだけど」
狼を探すのではなく、羊を確定していこうという発想だろう。
さすがは優等生……目を付けるところが違うと関心するが……
赤桐はまるで私達に口を出すなと言うように手の裏をこちらに向け、キョウカに言葉を返す。
「悪いが……その手の申し出は、今はお断りしよう」
危機認識、観察能力……どちらも私達より上だろう人物。
だが……彼の言う中で欠けるものがあるとしたなら……
「あら……信用されてないのね」
つまらなそうにキョウカはそう言い捨てその場を離れる。
「レイスちゃん、ギンガくん、僕は君たち二人だけは白と信じ……そして僕を白と信じてくれていると思い助言するよ……この先、僕、レイスちゃん、ギンガくんこの3人以外に自分が白であること、また黒の疑いのかかる行為は裂けるんだ」
真剣な顔で赤桐が言った。
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