第34話 聞き入ってます。

 大好きなサキヘ。

 

 まずは、サキがこの世界に来る前に見たことを説明するね。

 サキと別れるちょっと前に、スマホにメッセージが来てたでしょ?

 あれね、写真部の部長さんからの、メッセージだったんだよ。

 ふっふっふ、なんでそんな人からメッセージが来たかって?


 実は、コスプレのイベントで、写真をとってもらうようお願いしてたからなんです!


 それでね、部長さんから、喜んで引き受ける、って返ってきたから、参加するイベントが決まったって報告しにいったの。休みの日に時間をとってもらうんだから、直接お礼も言いたかったしね。

 

 それで、二人で話してたところをちょうどサキが見ちゃったわけなの。

 多分、告白か何かと勘違いしたんだろうな、って思ったよ。

 

 でも、その方が都合がいいと思ったから、頼んで恋人っぽくしてもらったんだ。

 部長はちょっとしぶってたけど、どうしてもって言ったら協力してくれた。


 なんで、そんなことしたかって?

 そんなの決まってるでしょ。



 サキのことを諦めるためだよ。



 だって、私と一緒にいたら、サキの可能性を潰しちゃうことになるから。

 たとえふりだとしても、部長と恋人になって、サキのことを忘れようとしたの。


 でも、すぐに後悔した。


 だって、サキ、階段から落ちて頭をぶつけて……、意識が戻らなかったから。

 お見舞いにいっても、ずっと眠ったままで。

 いつ起きるか分からないって言われて。

 サキのおばさんも、ずっと泣いてて。


 あのとき、サキを一人にしなければ、こんなことにはならなかった。

 サキを動揺させるようなことなんて、しなければよかった。

 全部、私のせいだ。

 なんてことばかり思ってたよ。

 そしたら、寝不足になって、私も階段から足を滑らせちゃって……。


 気がついたら、この世界にいたんだ。


 最初はちょっと焦ったけど、すぐに慣れたよ。

 どうせサキにはもう会えないんだし、この世界を楽しんでやろうって思って。


 でも、どういうわけか、本命の闇の元帥さんには、いつまで経っても会えなかった。

 そんな中でコウが、元帥さんは私と光の勇士が絆を結ぶのを邪魔したくない、と言ってるって情報を集めてきた。

 そのとき、ひょっとしたら元帥さんは、私が知ってる元帥さんと別人なんじゃないかって思ったんだ。

 だから、秘密裏にヒスイとコンタクトをとって、元帥さんに変わったことがないか聞いてみたの。

 最初は警戒されたけど、敵意がないことを伝えて、元帥さんに対する愛を語ったら、すぐに教えてくれた。

 そしたら、私が来る少し前くらいから、いままでとは別人のように見えるときがあるって話になった。


 そのときね、サキが元帥さんになってるんじゃないかって思ったんだ。 

 まあ、根拠のない直感だったけどね。


 そんな話をしたら、ヒスイはできる限りの協力をするって言ってくれた。

 愛し合う者どうしは、どんな苦難を乗り越えてでも結ばれるべきだって。


 そこから先は、知っての通りだよ。


 ちなみに、元帥さんがサキだって確信したのは、街で助けてもらったとき。

 光の聖女によく似た相手に失恋して、その相手にまだ未練があるって聞いたからね。

 

 サキが私のことをまだ好きでいてくれて嬉しい反面、ちょっと複雑だったかな。

 もう嫌いになってくれていたら、別人としてサキと両思いになってずっとこの世界で暮らしちゃおうかな、なんて考えてたから。


 あはははは。

 サキの可能性を潰したくない、って言ってたのに、矛盾してるよね。


 でも、おかげで決心がついたんだよ。

 サキを私から自由にして、元の世界に帰してあげなきゃっていうね。


 だから、ちゃんと私にバチが当たるようにして、究極魔法を使うことにしたの。

 

 シークレットボイスを聞くのに必要な頭を撫でる回数は、多めに設定したから……、ダイヤにはもう会ってるよね?

 強硬派のアイツが和平に応じたのは、理由があるんだ。


 平和条約を締結するふりをして、究極魔法で元帥さん以外の闇の勢力を全滅させる、って約束をしたの。

 

 もちろん、ウソだけどね。


 まあ、アイツも完全に信じたわけじゃないみたいで、「もしも約束以外のことに究極魔法を使おうとしたら、その場で処刑する」なんて言い出したんだ。

 まあ、その言葉を引き出したのも計画どおりなんだけど。


 だって、計画どおりにいけば――


 私がサキを手ひどくふる


 究極魔法でサキだけを元の世界に帰す


 約束を破ったからダイヤに処刑される


 元の世界に戻ったサキが、私が完全に事切れたことを知る


 ――っていう、ざまぁみろ、な展開になるから。


 よかったね! サキ!

 これで、野々山ミカなんて性悪のことを忘れて、穏やかな日常に戻れるよ!




 ……なんて言ってみたけど、やっぱり、未練があるから、こんな隠しメッセージを録音しちゃったんだろうね。



 ごめんね、サキ。

 大好きだよ。

 

 あー! 録音しといてなんだけど、サキがこのメッセージを聞きませんように!





  プツッ








 ――ミカの、バカ。


 一体なにを考えてるの!?

 私の可能性を潰すから一緒にいられない?

 約束を破ったら、その場で処刑?

 ふざけるのも大概にしてよ! もう!



 早く、この部屋から出て文句を言ってやらないと……。

 ふん!



  バシュッ!


  シュゥゥゥゥ……



 ダメだ。この扉、攻撃魔法でもびくともしない……。

 こんなところにいるわけにはいかないのに。

 ミカのところに行かないといけないのに。


 早く


  バシュッ!



 早く



  バシュッ!

  バシュッ!



 早く……

 


  バシュッ!

  バシュッ!

  バシュッ!



 本当に……、早く壊れてよ……。



「やっほー! 闇の元帥さん! お困りのようだね?」


「本当だよ! ……って、え?」



 不意に声が聞こえた天井を見上げると……


「とうっ!」


 天井板が外れ、ピンク色の着物を着た男の娘……


「元帥さんごめんなさいね、うちの子がまたご迷惑をお掛けしちゃったみたいで……、これつまらない物ですが」


 ……もとい、お母さん系男子のコウが、菓子折りを手に現れた。

 

 色々とツッコみたいことはあるけど……、これは間違い無く好機だ。

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