第10話 再会 その3


───現在 居酒屋


「ねえ、はじめちゃん。しょうちゃん今何してるか知ってる?」


かなりのペースで飲んでいるにも関わらず、 なかなか酔い潰れない徹がはじめに問いかける。


「松竹か。さあ、中学から会ってないからな」

「先生だよ先生。しかも中学の先生で、野球部の顧問してるんだって」

「へー。なんかイメージ出来るわ」


元丸美屋中野球部主将 梅月松竹。

面倒見の良い性格と、九重徹の周波数に合わせることが出来る柔軟性を鑑みて、教師という職業はぴったりに思えた。


「王春は何やってんだ?」

「え?はじめちゃん知らないの?」


何気ないはじめの問いかけに、徹が心底驚いたように目を開く。


「これだよこれ。全く近づいたと思ったら離れていく。まあ、早生まれの俺は慣れっこだがな」


2人の会話を聞いていた拓が絶妙に意味不明なことを言いながら、あるWebページが表示されたスマホをはじめに渡してきた。


「たくみん!その気持ち分かるっしょ!」

「徹。お前5月生まれだろ」


酔っ払った拓よりも知能が低い徹の発言にツッコミを入れながら、はじめは渡されたスマホの画面に目を向ける。


「え?まじかよ!?」


表示されたページには、次のような内容が載っていた。



俳優界に激震走る


ドラマ『エースオブエース』で俳優デビューを果たした睦月王春。

気迫溢れる演技と甘いマスクが評判となり、たちまち人気俳優へ仲間入り。


最近では出演したバラエティでシャイな一面を見せ、そのギャップから世の女性を虜に。

来年公開の映画『青春の王者』の主演も決まっており、その活躍に期待が寄せられている。



「へぇー。王春が俳優ねえ」

「エースオブエース。まじ鮫肌だったしょ!」

「鳥肌な。てか、流石にわざとだろ」


「今度サインでも貰おうかな」と呟きながら、何気なくブラウザを閉じる。


「うわ。拓、彼女にぞっこんだな」


現れたホーム画面には、先ほど紹介された同棲中だという彼女の写真が設定されていた。


「まあな。・・・まだ思い出さないか?」

「ん?どういうことだよ?」

「文だよ。石田文。武の妹の」

「え・・・ほんとだ!師匠じゃん」

「師匠?ああ、そういえばそんな風に呼んでたな」


写真の女性には、中学生の頃の石田文の面影が確かに残っていた。


「え!?たくみんの彼女は花ちゃんじゃなかったの!?」

「なんのことだ?」


徹が言っているのは、生徒会選挙の際に中村拓と杉咲花の密会現場を目撃した時の話だ。

あの時の勘違いを10年以上ずっと信じていたのだろう。


どこまでも純粋で、無駄に記憶力だけは良い徹だった。


「へー。お前と師匠がねぇ」

「あれ?たくみんとたけちゃんって従兄弟じゃなかったっけ?」

「ああ。そうだな」

「は!?そうなの!?」


初耳な情報に驚くはじめ。


「従兄妹同士って結婚できるのか?」

「ああ。法律では3親等以内の結婚を禁止しているだけだからな。4親等にあたる従兄妹はセーフだ」

「へぇ〜」


「まあ、法律でアウトでも俺は諦めないがな」と、酔った勢いで彼女への愛を語る拓。


「そうかあ・・・・・」


そんな親友の姿を見ながら、はじめは未だに姿を見せない同窓生の顔を思い浮かべていた。

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